若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
 豪華客船内とはいえ、この年越しコンサートは那覇所属の交響楽団も一緒になって行われるため規模が大きく本格的なものとなっていた。そのため男性はスーツかタキシード、女性はロング丈のドレス、とドレスコードがしっかりしている。
 カナトのスーツの色にあわせてマツリカもしっとりとしたモーブピンクの足首まで裾のあるナイトドレスにオフホワイトのレースカーディガンを羽織った格好をしていた。

「カナトはドビュッシーがすきなの?」
「ドビュッシーは母がすきだったから、小学校のときにベルガマス組曲を猛練習して発表会で弾いていたからね。指が覚えてるんだよ」

 今度は「パスピエ」だ。あちこちに飛ぶ鋭い音は、まるで外で降っている雨を威嚇するかのよう。
 夕方までは曇り空だった那覇も、夜になったいまはしとしとと雨が降っている。この様子だと北日本は雪のなかでの年越しになるのだろう。カナトの実家がある四国の天気はどうなっているのだろう。
 カナトのピアノを聴きながら、マツリカは年末年始の予定を反芻させる。
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