若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「南太平洋クリスマススペシャルクルーズ? 富裕層向けのパンフレットにしてはギラギラしすぎてないか?」
「それでもおかげさまで予約はすでに満席だそうですよ。やはり日乃から買収したハゴロモのリニューアルということで以前からのファンが飛びついたものかと」
「ふうん。親父はそのリニューアルされたハゴロモの視察をする予定なんだよな」
「ええ。BPWにはそのようにお伝えしております。鳥海の海運王御一行によるお忍びです、と」
「どこがお忍びだ。バレバレじゃねえか」
「一般客にはバレないようにしてますよ。ただ、スパイをおびき出すには餌が必要になるでしょう?」

 にやりと不敵に笑う男の顔を睨みつけ、カナトはぽつりと呟く。

「スパイかどうかはまだわかっていない」
「カナトさまが庇いたくなる気持ちもわかりますけど、現実を見てください」
「俺は充分現実と戦っていると思うがな、伊瀬……」

 ずっと探していた初恋の少女は、ライバル会社の令嬢になっていた。
 日本の海運四天王の次点にいる新興の観光フェリー企業キャッスルシーを運営する城崎清一郎の娘に。
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