若き海運王は初恋の花を甘く切なく手折りたい
「はい?」
「総支配人と船長の許可が必要か?」
「で、ですが」

 困ったように笑いながら媚びへつらってくる金髪のコンシェルジュは若き海運王がひとりの女性に興味を抱いたことに危惧を抱いたらしく、彼の一方的な要求を退けようと考えをめぐらせている。と、そこへ慌ただしく制服を着た男性がカナトのもとへ駆け寄ってくる。

「鳥海さま、何かご用命でしょうか?」
「餘江さん。さっきこの階のレセプションデスクにいらした女性について知りたい」
「さきほどの……ああ、歩く翻訳、っと失礼、城崎のことですか?」

 歩く翻訳? 彼女の呼び名に思わず顔をしかめるカナトだったが「キザキ」の言葉に我に却りこくりと頷く。

「そう、俺は彼女が気に入った。チップなら弾む。連れてきてくれるよな?」

 獲物を定めたような鋭い視線を向けられ、餘江と金髪女性は凍りつく。
 二十五歳独身の若き海運王を狙う女性は世界各地にいるが、彼が自分から女性を求めることはないと知られていた。
 その彼が、オーナー権限をつかってでも彼女と接触したいと交渉してきたのだ、一介の支配人でしかない餘江が拒絶することはまず難しい。
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