彼と私のお伽噺

「何か心配なことでもあるの?」

 表情を曇らせる私に、戸崎部長が心配そうに訊ねてくれる。


「もし昴生に直接言えなくて困ってることがあるなら、俺からも手助けはできるよ」

 戸崎部長が私に少し踏み込んだ話をしてきたのは、彼が学生の頃から昴生さんと知り合いだからだろう。

 戸崎部長に優しく声をかけてもらえて、少し気が緩んだ。


「昴生さんて、これまでどれくらいの人と付き合ったんでしょうか」

 ぼそりと訊ねると、戸崎部長が「え?」と口を開く。

 私の質問の内容が意外だったのか、戸崎部長が数回瞬きしてクスッと笑った。


「どうしたの、急に。昴生が浮気でもした?」

「いえ、そういうわけでは……!」

「俺にできることがあれば、協力するけど」

 戸崎部長が少し背を屈めて、私だけにしか聞こえないように声を潜める。

 だけど、深刻に相談にのってくれているという感じではない。

 戸崎部長の口元は笑いを堪えるようにひきつっていて、なんとなく面白がられているような気がする。


「浮気とか協力とか、そういうことではなくて。なんというか……、急に変なこと聞いてしまってすみません……」

 恥ずかしくなって顔を赤くしながら、ばばっと左右に忙しく手を動かす。

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