契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
 すると通りかかった槙野にポンと頭を撫でられた。
「張り切り過ぎて倒れんなよ」

 ラフなパーカーを着ている槙野はそれを肘までまくって先ほどから引っ越しの手伝いをしてくれている。いつもはぴっちりとまとめている髪も今日はそのまま自然におろしていて、いつもと全然違う姿にどきんとしてしまうのだ。

 まくっている袖から見える腕とか手首とか、引き締まってて逞しいのは結構きゅんとする。
「どうした?」
「手伝ってくれてありがと」
「当然だろ」

──っか、可愛いっ。

 美冬は身軽さを重視してか、今日はパステルカラーのパーカーと、サブリナパンツ姿でしかも髪をポニーテールに括っている。

 時折屈んだ時にさらりと髪が落ちてその華奢なうなじが見えたりするのに、いい……と槙野は釘付けになりそうなところだ。耳とか、すっきりした首筋とかキリッと見えているのは結構きゅんとする。

 夕方になって引越し業者も帰り、二人はぐったりとリビングのソファに座っていた。

「ホント、ありがとう。指示の出し方とか気の遣い方がさすがだったわ」
「いや、美冬も頑張ったな。しかし、飯もなんか作る気はしねーな。かと言って出かけるのも億劫じゃないか?」
「もう無理~」
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