契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした
「そんな顔するか……あー、だな。この前はクローズドのコンペだったか」
 男性は胸ポケットに手をやった。

 その目つきで胸ポケットに手はヤバい!
 なにか得物が出てくるかもしれないっ!

 ──や……()られるっ!
 思わず企画書を顔の前に持ってくる美冬だ。

 実際何かあったらそんなものでは防げないのだろうが。
 胸ポケットから名刺入れを取り出した彼はきょとんとしていた。

「どうした?」
「……いえ、なんでもないです」

 取り出したのはブランド物の高級な名刺入れだ。そこから彼は名刺を出して美冬に渡した。
 美冬はバッグを足元に置いて、名刺を受け取り確認する。

『グローバル・キャピタル・パートナーズ、副社長、槙野祐輔(まきのゆうすけ)

(副社長!? 副社長だったの!?)

「全部、感情が顔に出ているぞ」
 呆れたような声が頭の上から降ってくる。

「す……すみません」
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