契約婚と聞いていたのに溺愛婚でした

8.契約書に『アレ』の記載は?

 シャワーを借りた美冬は髪を乾かして、リビングに向かう。

 ソファで疲れたように座り込んでいた槙野が美冬を見て、一瞬で目を逸らし、はーっと深くため息を付いたのが分かった。

──なんだろ?なにかまずかったかな?

 美冬は槙野の隣に座ってその顔を覗き込む。
「槙野さん? どうしたの?」
「お前……分かってないのか?」

(何をだろう?)
 そして槙野の顔をもう一度見て、美冬はどきんとしたのだ。
美冬を見る槙野の顔がなんだかとても色香を含んでいるように見えて。

 最初に会った時は怖かった。
 けれど、ひとつひとつの槙野が見えてくると、思いやりがあって、優しくて、意外と気を使ってくれたり、一緒に食べるご飯が楽しかったり、誰に対しても堂々としている姿も悪くないのだ。

 そして、美冬はふと思い出した。
 契約書には『アレ』についての記載は特になかったことに。しかし、不貞は当然一切禁止だ。それどころか二人で会うことすら禁止されている。

 それは美冬だけではなくて、もちろん槙野にも適用されることだ。

 確かにそんなことを記載されるのもどうかとは思うけれども、今それを確認してもいいものだろうか。
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