極上御曹司に見初められ、溺愛捕獲されました~一途な海運王の華麗なる結婚宣言~
「ピアノの弾き方なんて本当にもう忘れちゃいました」

 焦りながらも座っているだけでいいなら……と、つい横に腰かけてしまう。
 翔一郎さんがピアノを弾く様子をもっと近くで見てみたかった。

「意外と体が覚えているものだよ」
「もう十何年も弾いていないんですよ?」
「大丈夫。鍵盤にさわってごらん」

 そっと鍵盤にふれると、隣で翔一郎さんがロマンチックな曲を弾きはじめた。
 ピアノバーの琥珀色の明かりの中に、ゆっくりと散りばめられる音。その美しい音のつらなりがキラキラしながら天に舞いあがる。

 これも有名な曲だ。
 たしか『愛の夢』……だったかしら。

「主旋律はわかる?」
「はい……」
「間違えてもいいから、弾いてみて。片手でもいい」

 翔一郎さんにうながされて、ポロポロと音を出してみる。
 子供の遊びのようなつたないメロディー。
 けれど、彼はわたしの旋律に合わせて『愛の夢』をある程度の形にしてくれた。

「上手だよ、鞠香」

 そういえば、こんなふうに年上の男の子と並んでピアノを弾いたことがある。男の子はとてもピアノがうまくて、よくわたしにいろんな曲の弾き方を教えてくれたのだ。
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