離婚するはずが、心臓外科医にとろとろに溶かされました~契約夫婦は愛焦れる夜を重ねる~
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 九王総合病院は9階建ての建物だが外来は別棟になっている。
 一般外来患者を受け入れる外来部分は3階までで、中央が吹き抜けのアトリウムになっており、それを囲むように各診療科が並んでいる。

 明るい1Fのロビーにはかつて米田パンのショップがあったのだが、今はコーヒーショップのチェーン店が入っている。
 凛音は普段、外来の事務処理フォローが終わる午後の時間帯、3階の病棟側にある医事課のデスクで作業をする事が多い。

 今日も外来の会計は大忙しだった。凛音が入職する数年前に自動精算機が導入されてから随分楽になったらしいが、会計データの集計チェックやシステム周りのメンテナンスは欠かせない。

 事務職員の大半は医療系派遣業者から派遣された人材だが、凛音は九王総合病院から直接雇用されている。その立場から責任ある仕事や取りまとめを行う事も多い。

 初めは慣れない仕事を一から覚えるのは大変で、失敗し落ち込む事も多かったが、今は一通りの業務を覚え、それなりに自信を持って行えるようになった。しかし緊張感は無くさないようにしようといつも思っている。

「凛音ちゃん、今大丈夫?ちょっと頼まれて欲しいんだけど」

 事務室で会計計算システムの保守ベンダーとのやり取りメールを書いていると、声を掛けて来たのは定岡博美(さだおかひろみ)という女性だ。
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