三次元はお断り!~推しが隣に住んでいまして~
「え、えっとあの」

 さすがにこの近くの自社スーパーはまずい!

「累さんオススメありますか」

 ヒー何言ってんの自炊しない人にお薦めスーパーなんか解るわけないじゃん!
 と、思ったら。

「あ、じゃあ、昔姉ちゃんによく連れて行かれたところ、行こうか。姉ちゃんがあの部屋に住んでた頃、行ってたとこだよ」

 先輩ー!
 感動で涙が溢れそうです……! ここにいなくてもわたしを助けてくれる、それが先輩クオリティ……!!

「じゃあ、車出すね」

 累さんは呟くと、座席と座席の真ん中にあるギアに手を置いて、グっとレバーを押した。
 片手がハンドルを握ってて、ゆったり背中を座席に預けながらの運転で、スイーっと滑らかに車は走り始める。

 横顔。

 目元の見えない横顔。頬が精悍に引き締まってて、骨格がガチっとしてて、肩がものすごく広い。こうして座席におさまっていても、少し動けば触れてしまいそう。
 クルーネックのニットから見える喉元。ぐりっと浮き出た喉仏。ごつごつした顎の線。ギアを握る指先、大きくて硬そうな爪。

……ああ。

(男のひと、だ)
 勿論、累さんが性別:男性だってことは知ってたけど。
 ものすごくリアルに、わたしはこの時初めて、累さんが「男のひと」なんだってことを実感してしまった。

 わたしと同じ現実を生きてる、男のひとなんだって。

「やっぱり、この時間帯は混むね」

 しっかりと前を見ながら、ハンドルをくるんと片手で回して、累さんが言う。

「そうですね……」

 ウィンカーをかつん、と弾くように上げる仕草。ふ、とミラーに視線を寄せてから、またすぐに戻して、ハンドルを少しだけ動かす。
 ハンドルに軽く置かれた手の甲、浮き出たゴツっとした骨。
 袖から覗く手首の、筋張った感じ。呼吸でゆるく上下する、シートベルトに押さえられた胸元。
 ふ、と緩く開いた薄い唇、微かに動く前髪の毛先。
……全部が生々しくて、男のひとで、それでやっぱり。

(きれいだな)

 きれいだった。
 こんなにきれいな男のひとを、わたしは、今までどこにも、見たことがなかった。

 車はのろのろと進む。陽の落ちた幹線道路は、並ぶ車のライトで星みたいにあちこちがきらきら光ってる。

 累さんは時折、思い出したみたいにぽつぽつ喋った。低い、やさしい声だった。
 そしてわたしは。

 そんな累さんの横顔から目が離せなくて、ただじっと、運転している累さんを、息をするのも忘れて見入ってしまっていたのだった。
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