背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
エピローグ
 一緒に住むにあたり、一花の両親を心配させないようにと、真面目な尚政は彼女の両親に挨拶を済ませた。最初は驚いていた両親だったが、妹の二葉からの口添えもあってスムーズに進んだ。

 交際期間を聞かれた時に、
「六年です! でも清い交際ですから!」
とはっきり答えた尚政を見て、一花と二葉はつい吹き出した。そもそも交際してないし。

 二人での暮らしが始まってみると、休みが合わなくても、朝と夜は必ず一緒に過ごせることが一花は嬉しかった。

 毎日同じベッドで眠り目覚める。愛してると囁き合って、重なり合って、心も体も満たされる。こんな幸せな気持ちがあるなんて知らなかった。

 しかしその生活が三ヶ月を過ぎた頃、尚政が落ち込んだ様子で帰ってきた。一花はとうとう辞令が出たのだと察知した。

「……いつから?」
「七月……」
「そっか……」

 尚政はソファに座ると、下を向いて肩を落とす。

「自分で決めたことだし、わかっていたことなんだけど、やっぱり今の生活を失うのは辛いな……」

 一花は尚政の隣に座ると、彼の手を握った。

「あのね、この日が来たら言おうと思っていたことがあるの」

 尚政がゆっくりと顔を上げる。一花は微笑むと、彼にそっとキスをした。

「ずっと考えてたの。やっぱり先輩のそばにいたいなって。この三ヶ月、一緒にいて本当に幸せだったの。だからね、今すぐは無理だけど、私もアメリカに行ってもいい?」

 尚政は驚いたように目を見張り、口元を手で押さえた。

「で、でもね! それだけじゃないのよ。アメリカのお菓子を学びたいの。特にカップケーキとドーナツ! いつか自分らしいお菓子が作れたらなって思ってる」
「すごい……一花らしい考えだね。俺が一番じゃない感じがまた一花らしいというか……。俺はどんな形でも、一花が一緒に来てくれたらすごく嬉しいよ」

 そう言って一花の体を強く抱きしめる。

「何言ってるの。もちろん先輩が一番に決まってるじゃない。わかりきったことを言わないで」
「あはは。嬉しいなぁ……一花の言葉っていつも俺を幸せしてくれるんだ」
「じゃあいいの?」
「でも一つ問題がある」
「問題?」
「そう。行くからには一花のご両親にちゃんと了解をもらわないとね」

 尚政はにっこりと微笑むと、両手で一花の手を包み込む。

「ねぇ一花、今すぐとは言わない。でもいつか、俺だけの一花になってくれる?」
「それって……」
「俺、自分で思ってた以上に独占欲が強いみたい。一花を残して行きたくないって思ったのに、来てくれるって聞いたら独り占めしたくなっちゃった。こんな面倒くさいやつだけど、結婚を前提に一緒にアメリカに来てくれる?」

 思いがけない言葉に一花は驚いて言葉に詰まる。

「本当に? その気にしちゃうよ?」
「うん、こんな変態みたいな男だけど、末長くよろしくね」
「うふふ。私だって変態だもん。変態同士、こちらこそよろしくね……」

 中学生の時に先輩に恋をして、大人な先輩にはなかなか追いつけず、どんなに背伸びしたって届かなかった。

 でも今は無理に背伸びしなくても、自然とあなたが私に近付いてくれる。そして私はあなたを抱きしめて引き寄せる。

 お互いに寄り添って、思い遣り、そうやって徐々に距離は近付いていくって、あなたを愛して気付いたの……。
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