背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

「今日さ、柴田から一花ちゃんの誕生日のことを聞いてさ」
「あぁ……なんだ、そんなことでしたか……」
「……なんか違うことでも考えてた?」
「いえいえ! いきなりだったからびっくりしただけです」
「そう? ならいいけど。でも誕生日のこと教えてくれたら良かったのに」
「でも先輩忙しいかなって思って……」
「俺の誕生日を祝ってくれたのに、俺には一花ちゃんの誕生日を祝わせてもらえないの?」
「そんなつもりは……! 逆にいいんですか?」

 一花が申し訳なさそうに下を向くと、尚政の手が頭に載せられる。

「何か欲しいものとかある? 行きたいところでもいいけど」

 その言葉を聞いて、一花の体はピクンと反応する。隣にいた尚政もそれに気付く。

 実は一つだけ尚政としてみたいけど、言えなかったことがあった。誕生日だったら叶えてもらえるかな……。淡い期待を持つ。

「あの……なんでもいいですか……?」
「まぁ許容範囲もあるけど、どういう内容?」
「……先輩と制服デートがしたいです……」

 尚政はデートまでは想定していたが、制服デートは想定外だった。そのため一瞬固まる。

「もうすぐ先輩卒業しちゃうし、その制服姿も見られなくなっちゃうじゃないですか……。先輩はセーラー服の中学生と一緒じゃ恥ずかしいかもしれないけど……」
「いいよ、制服デートしよう。でもね、俺は別に一花ちゃんといることを恥ずかしいとは思わないからね。そこははっきりさせておこう」
「……本当?」
「本当。今日は遅くなっちゃうから、来週の部活のない日はどう?」

 一花は嬉しそうに何度も頷く。最近はこの反応が見たくて、一花の願いを叶えたいと思うようにすらなっていた。

 その時ちょうどバスが走ってくるのが見えた。

「また連絡するよ。後で日にちとか決めよう」
「ありがとうございます……楽しみにしてますね!」

 一花は尚政に手を振りながらバス停へと走る。尚政はバスが走り去るまでその場に立ち尽くしていた。

「制服デートか……」

 尚政は一花の発想が初々しくて、思わず笑ってしまう。俺だって制服デートなんかしたことないよ。

 一花がよくブレザーの裾をさりげなく掴んでいることには気付いていた。見て見ぬふりをしていたのは、やめて欲しくなかったから。

 俺の中身も中学生で止まってるのかな。一花ちゃんの仕草一つ一つについ照れてしまう。

 
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