背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜
 イルカショーが終わると、二人とも先ほどまでの会話をすっかり忘れ、ショーのことを語り合っていた。そしてその雰囲気のまま魚の水槽のコーナーへと入っていく。照明が暗くなり、自然と声も小さくなった。

「あっ、クラゲだ」

 たくさんの水槽の中に様々な種類のクラゲが泳いでおり、色鮮やかに光り輝いていた。

「最近すごく好きなの。きれい〜」
「本当だ。俺こういうクラゲ見たの初めてかも」
「最近、女子に人気ですからね」
「すごい。絡まりそうで絡まないんだ、あの触手」
「……なんか先輩みたい」

 ようやく先ほどのやりとりを思い出し、尚政は苦笑いをする。言い返せないから困る。

「あっ、そうだ。この先の広場でね、真珠を貝から取り出す体験が出来るってパンフレットに書いてあったの。やってもいい?」
「そんなのあるの? いいんじゃない? やってみなよ」
「やった。ありがとう!」

 一花は楽しそうに広場の方を指差し、尚政の手を引っ張って行く。

 俺が後ろ向きな考えをして空気をおかしくしても、一花はすぐに戻してくれる。だからつい居心地が良くなってしまうけど、一花に気を遣わせているようで気が引けてしまう自分もいた。

 こんな面倒くさい男なんてさっさと愛想尽かして、もっといい人を探せば良いのに……そう思うのに、愛想を尽かさずそばにいてくれる一花の存在が、俺の中で思いがけずどんどん大きくなっているのも確かだった。

* * * *

 席に案内された一花と尚政は、机の上に置かれた貝の山を見て驚く。

「この中から貝を一つ選んでくださいね。貝によって色も大きさも違うんですよ」

 説明を聞き終えると、一花は隣に座っていた尚政の方を向く。

「先輩が選んでくれたら嬉しいんだけど….」
「俺が? 小さいのが出ても知らないよ?」
「大丈夫。今日の記念だもん」
「めちゃくちゃ責任重大だなぁ……」

 尚政はなるべく大きそうな貝を探し、これだと思ったものを選んで一花に渡す。

 一花が取り出す作業に入ると、祈るような仕草をしてみせた。

「大きいのが出ますように!」

 尚政の声に合わせるように、一粒の真珠が飛び出した。大きさはそれほど大きくはないが、淡いピンク色が一花らしい。

「あら、ピンクでしたか! お客様にぴったりですね。ところでこのままお持ち帰りになりますか? 材料費がかかっちゃうけど、アクセサリーに加工することも出来ますよ」

 店員はネックレスやキーホルダーなど、加工後の写真を見せると、一花は少し悩み始めた。

「へぇ、こんなふうにしてくれるんだ」
「かわいいんだけど……ちょっと高いし、まぁそのままでいいかな」
「えっ、せっかくだし加工してもらおうよ。このイルカのネックレスなんて一花に似合いそう」
「でも……」
「これ、俺にプレゼントさせてくれない?」
「先輩の誕生日なのに、私がもらうの?」
「なんか一花にはいろいろ嫌な思いをさせちゃってる気がするからさ、そのお詫び」
「……一応自覚してるんだ……」

 ボソッと呟いた言葉を聞き流すように、尚政は受付を済ませてしまった。

「少し時間がかかるから、また後で取りに来てって」
「なんかやっぱり申し訳ないなぁ……」
「いいじゃない。俺が渡したいって言ってるんだしさ、一花が笑顔で受け取ってくれたら嬉しいんだけど」
「じゃあ……お言葉に甘えちゃおうかな……」
「そうそう。待ってる間にご飯でも食べちゃう?」

 一花は頷くと、少し勇気を出して尚政の腕にしがみついてみる。

「腕組むのって……友達はしない?」

 最近は手を繋ぐことにも慣れてしまったので、赤くなった一花を見たのは久しぶりだった。

「どうなんだろうね。まぁ俺たちはいいんじゃない?」

 尚政が答えると、一花は嬉しそうに腕をぎゅっと抱きしめる。どうして先輩は私を喜ばせる言葉を知っているんだろう。さっき傷付いた心も、一瞬で癒されてしまうの。


 
 
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