背伸びしても届かない〜恋を知った僕は、君の心に堕ちていく〜

友達

 誕生日の日、私はやっぱりやらかしてしまった。というかやり過ぎてしまったんだと思う。

 あの日以降、メールは届くものの、先輩とは一度も会わずに夏休みを迎えようとしていた。

 教室の窓から外を眺めては、一花はため息のオンパレードだった。

 会いたい。声が聞きたい。抱きしめられて、キスしたい。先輩が私を放置するから、また欲求不満な変態に逆戻りしてる。

 日直の仕事を終えた智絵里が教室に戻ってきた。

「あれっ、めぐたんは?」
「えっ、智絵里と一緒じゃなかったの?」
「ははーん。ってことは彼氏の所かな?」

 二年生に進級してから、一花の周りでも様々な変化が見られた。智絵里とまた同じクラスになれたり、芽美には同学年の彼氏が出来た。
 
 芽美は毎日彼氏と楽しそうに過ごしていて、一花はその姿を見るたびに落ち込んでいた。

「めぐたんは毎日楽しそうだよねぇ……」
「まぁ付き合い始めってあんな感じなんじゃない? 一花も先輩のことは諦めて、同年代の彼氏を作れば毎日楽しく過ごせるかもしれないよ」

 智絵里は一花の隣に並んで外を眺める。

「一花さ、先輩のこと、意地になってるわけじゃない? こんなに好きなんだから、振り向いてもらえるまで諦めないぞーみたいな」
「……私ってそう見えるの?」
「たぶん一花を知らない人から見たらそう見えると思うよ。まぁ私たちは一花の性格を知ってるからね、ただ先輩が好きなだけなんだよね」
「……私、もうどうしていいかわからなくなってる……。引いてもダメで、押してもダメで、じゃあ後は何をしたらいいのかな……」
「そうねぇ……私はいつも通りでいと思うけどなぁ。なんか話を聞いてるとさ、ゆっくりではあるけど近付いてる気がするんだよね」

 智絵里はポケットからのど飴を取り出すと、一粒を一花に渡した。

「だって一花と先輩がやってることって、普通は付き合ってる二人がやることだよ? 先輩が恋をしないって言ってるから二人の関係に名前がついていないけど、先輩が認めれば今すぐにでも恋人に昇格すると思うもん」

 智絵里にもらったのど飴を口に入れると、口の中に清涼感が広がっていく。その時、校舎の外を彼氏と仲良さげに歩いている芽美を見つけた。

 同じ制服に身を包み、同じ目線で話が出来る。話題が同じだからすぐに理解し合える関係って、確かに楽しいだろうな。

 でもすぐに理解出来なくても、伝え合うことは出来る。私が話していると、先輩はいつも頷きながら相槌を打ってくれるの。それがすごく好きだった。

 逆に先輩のことを知りたくて、話に聞き入る時間も心地良かった。

「ダメだ……私、先輩しか考えられない……」
「あはは! じゃあいいんじゃない? しんどくても、それが一花が選んだ恋なら続ければいいよ。先輩が早く自分の気持ちを認めてくれるといいね」

 すると彼氏と一緒に歩いていた芽美が二人に気付き、笑顔で手を振った。二人が振り返すと、芽美は両手を前に出して『そこで待ってて』というポーズをする。

 一花と智絵里は顔を見合わせると、会話を止めてそのまま待った。
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