カラフルハート
鍛治くんのお母さんと2人きり、これは全く予想外の展開。
「あの、お母さん。私ひとりで着れるので、大丈夫ですよ…?」
先ほどリビングのほうで身支度を整えていたので、きっとこれからどこかに出かけるのだろう。
時間を私の着付けに使わせるのは申し訳ない。
「色々優くんのこと聞きたくて、無理やり連れてきちゃった。ごめんね?
浴衣ももっと天野ちゃんに合うような鮮やかなものがあったら良かったんだけど、昔大正ロマンにハマってて買ったのがこれしかなくってね」
「い、いえ。とっても素敵です……」
その浴衣は白地に大きな黄土色の矢絣模様がまだらに入っている。
紫色のシワ加工されたくしゅくしゅの帯がまた可愛い。
デザインはシンプルだけど、言っていた通りモダンで大正ロマンっぽい浴衣。
ふと、おばあちゃんが言っていたことを思い出す。
最近はみんな着物を着なくなってしまって寂しいと。
和服は日本の大事な文化だから、消さずに残していってもらいたいもんだねえ……、と。
「天野ちゃん、優くんて学校でどんな感じ?」
「…鍛治くんは……あ、すみません。優人さんは、」
「ふはっ、言いやすいほうでいいよ」
言い直した私に吹き出して笑うお母さんは、鍛治くんとよく似ていた。