不毛な恋模様〜傷付いた二人は、輝く夜空の下にて熱く結ばれる〜
想いの行方
 こんな日に限って残業なんて……。昼間のイライラを引きずりながらの仕事は全く捗らなかった。

 家に帰るまでの足取りが重い。

 波斗から、夕飯を作って待ってるというメッセージが届いていた。きっと昼間のことが気になっているはずなのに、それには全く触れてこないのはありがたかった。

 正直思い出したくないし、あの男に今後会いたくもなかった。仕事だからそういうわけにはいかないけどね。

 家のドアを開けると、部屋の中からカレーのいい匂いが漂ってくる。

「ただいま〜。今日カレーなの?」

 不愉快な気分も吹き飛びそう。

 台所では波斗が着替えもせずにカレーの鍋を混ぜている。彼も遅かったはずなのに、こうして作ってくれることが嬉しかった。

「おかえり。疲れた?」
「うん、今日は結構疲れてる」

 紗世はソファに倒れ込む。家に帰るとホッとする。着替えるの、面倒くさいなぁ。

 すると波斗が心配そうに近付いてきて、ソファの横に座り込んだ。

「今日不機嫌そうだったのって、弦巻さんが原因だったんでしょ? ちょっと噂になってた」

 帰って早々にその話題……。

「……あまり話したくない。でもすごく嫌な男だった」

 波斗は紗世の頭を撫でる。優しい先輩が好きなのに、今は少しイラッとする。

「大丈夫だった? 何かされたりしてない?」
「……どうしてそんなこと聞くの? 先輩には関係ないじゃない」
「紗世ちゃん……」

 嫌なことを一日中引きずって、肉体的にも精神的にも参っていたため、感情のコントロールが出来ない。

 紗世は口から出る言葉を止められなかった。波斗の手を振り払うと、起き上がり睨みつける。
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