スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私の前では疲れた態度は見せないが、一緒に生活する中でよく目元にクマを作っていたり、ソファで寝落ちていたりする姿を見かけていた。

「今日は肉じゃがにしようかなって思ってます。退院したばっかりなのでなるべく消化に良さそうな物がいいかなって」

「それは楽しみだね。最近の紗雪、料理するの楽しそうだし、見ている俺も嬉しくなるよ」

「一人だとなかなか料理することあんまりなかったので考えもしなかったんですけど、最近は料理が趣味みたいになってきて。作るのが楽しいんです」

 元々は啓一郎さんの料理の上手さに対抗して密かに練習していたが、いつのまにか作ることが日課になり、趣味にもなっていた。スマートフォンで色んなレシピを検索して、新たな料理を開拓していくことに情熱を注いでいる。

「紗雪に新しい趣味ができてよかったよ」

 啓一郎さんは安堵したような声色で呟いた。バレエ一筋だった私に別の楽しみが出来て良かったと喜んでいる様子だった。

「それよりさ……紗雪はエプロン姿も似合うね。これって新しく買ったやつ?」

「はい。エプロンなんて前はせずにお料理してたんですけど、やっぱり油とか飛ぶので買っといた方がいいかなと思って」

 出かけた際に見つけた上品な小花の散った黄色をベースにしたエプロン。
 啓一郎さんはそのエプロンの背中の結び目のリボンを触りながら言った。

「かわいい。……今すぐ食べたいくらいに」

 耳元で囁かれ、思わず手元が狂いそうになる。全身が小さく震え、頬に赤みがさすのを感じる。

「だ、だめです! 今は料理の真っ最中なので危ないですから離れててください。それに、啓一郎さんは病み上がりなんですよ? た、食べるとか……そういうことは身体が健康になったときに……」

「そういうことってどういうこと?」

 一度手を止め、啓一郎さんに顔を向ける。彼は意地悪そうな表情で赤くなる私を見つめていた。
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