スパダリ医師の甘々な溺愛事情 〜新妻は蜜月に溶かされる〜
 私はそんなステファニアさんに代わってバレエスクールの代理講師を務めていた。
 妊娠が分かった際、子供たちに説明をして一時お休みにしようと考えていたということだったが、私がバレエの講師を目指し始めたと聞いてよければどうかと頼まれたのだ。
 当初は生徒たちな申し訳ないと迷ったのだが、その子供たちから出来るのならばレッスンを続けたいとの申し出があり、引き受けることになった。

「うぅ、少しだけ寒くなってきたね」

「風邪を引いたら大変ですよ。早くお部屋に戻って────」

「ステファニアー! どこー!」

 熊沢さんの大声が聞こえ、私たちは顔を見合わせた。最近、熊沢さんの過保護が重症化し過ぎており正直鬱陶しいと言っていたステファニアさんは呆れた顔でため息をついた。

 熊沢さんの気持ちも分からなくはない。念願の子がお腹の中にいるのだから、過保護にもなるだろう。
 私たちは「また明日」とお辞儀をし、別れの挨拶をした。
 
「明日、楽しみにしてるから!」

 そう言ってステファニアさんは元気そうに手を振った。
 私も手を振りかえし、そのまま熊沢宅を後にした。

 外に出ると見覚えのある黒い外車が一台停まっており、私は目を瞬かせる。

「あれ、啓一郎さん?」

 車のそばには見慣れた男がぼんやりと空を眺めており、思わず声をかける。
 私の声に気がついた男────啓一郎さんははっとしたあと私に向かって歩き出した。

「紗雪! 今日は少し遅かったね。少し心配したよ」

「ステファニアさんと途中で会ったんです。今日は体調がいいみたいで。あ、お腹大きくなってましたよ。……ステファニアさん明日ほんとうに大丈夫かな……」

 考え込むように俯くと、啓一郎さんは私の顎を掴み、いきなり口付けを落とす。
 まさかの路上でのキスかと驚いている間に、彼は満足したのか離れていた。

「明日は大切な日なんですから、今日は早めに休んで備えましょうね」

「……家でもう少しだけ触れるくらいならいいでしょ? 本当なら紗雪とは1秒だった離れていたくないんだ」

 その言葉に私は苦笑する。
 ……正直、啓一郎さんも熊沢さんに負けず劣らず過保護である。

 ステファニアさんの気苦労がら分かったところで私たちは車に乗り込み、自宅へと帰還した。
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