恋に落ちる音  【短編】
背の高い彼を腕を掴んだまま上目遣いに覗き込むような体制。

 彼と視線が絡んだ。

 駅前通りの街の雑踏が消えて、自分の心臓の音がドキドキ、ドキドキと聞こえる。

 どうしよう、彼から目が離せない。

 自分の心臓の鼓動が一層早くなった気がする。

「あー、あのー、誰? 知り合いだっけ?」

 彼の声が聞こえた。ボーっと見つめているだけの私。
 彼は、少し面倒くさそうな表情でヘッドホンをずらす。

 ハッ、ダメじゃん私!
 慌てて手を離し彼のキーホルダーを差し出した。

「これ……落としました」

「えっ⁉」

 少し驚いた表情の彼は、慌てた様子で自分のGパンのポケットを探った。
 そして、ほぅと息を吐き。

「ごめん、ありがとう」

 彼が、私の手の平からキーホルダーを持ち上げた。

 ” チャリーン ”

 キーホルダーに付いている小さな鈴が鳴った。

 ニッコリ笑った彼を見た私の心臓がギュッとなる。
 どうしよう、どうしたんだろう、私。

「ごめんなさい。いきなり腕つかんじゃって、何回か声を掛けたんだけど、聞こえなかったみたいで、ドンドン先に歩いて行っちゃうし、追いつけないと渡せなくなってしまうかと思って…… 」

 ああ、私、何言ってんの!

「ごめん。知らない子に腕つかまれたのかと思って……。俺、態度悪かったよね。この鍵が無いと部屋に入れないところだった、助かったよ」

 そう言ってニッコリ笑った顔に片エクボが出来ていた。
 爽やかに微笑む彼に私の心臓が再びドキドキと早鐘を打ち始めた。

 私、このまま、キュン死してしまうかもしれない。


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