いらない物語(続・最初のものがたり)
4
カサカサの心のままのダンスは、
みんなにバレバレだ。

「ちび、荒れてんな」
「ナナミ、何かあったの?」
「お腹すいたのか?」

みんなに心配される。

あーダメだ!

忘れよう!

とりあえず、今は、ダンスだ!

「ナナミ、
そんな厚着するから動けないんじゃない?」

アヤノに言われて、
ショーウィンドウに映る自分を見た。

なんだこれ、重ね着に重ね着を重ねてる。

ふっ。

私って、結局これ、自分がないじゃん!

なんだよ、自分の好きにしたいって。
自分らしくいたいって。

聞いて呆れる。

「ちび、どうした?」

タツキに言われて、
自分が泣いてる事に気がついた。

慌てて涙を拭う。

「いや、ごめん、目にゴミが。」

困るタツキが鞄から出してくれた
大量のお菓子を抱えて休憩した。

タツキは小学生の頃からのダンス仲間で、
2つ年上のお兄ちゃん的存在だ。

いつも、お菓子くれるんだよなぁ。

でも今日は、
お菓子でも気持ちは埋まらないな。

もう帰ろう。

なんだよ、私。

勇磨しかないじゃん。
勇磨が全てじゃん。
どうしょう、私がいない。

どんなにツライことがあっても、
ダンスに集中できたのに、
今日はできない。

勇磨は今頃、先生と何をしてるの?
2人で笑い合ってる?

やだ!

勇磨を失うかもしれない。
失ったら私、どうなるんだろう。
何にもなくなっちゃう。

私ってこんなに弱かった?
あきらめるの?
先生、渡すの?

違う、やだ。

こんなの、私じゃない。

やっぱり違う!
ダメだよ、勇磨がいないのは耐えられない!

黙って見てるしかないなんて、
ありえない!

後悔したくない!
どうせ壊れるなら自分で壊してやる!

どんよりしていた心が晴れた!
勇磨にぶつかる!
取り返す!

顔を上げ、
前を見据える私の横に誰かが座った。

その気配に振り返ると、
ホッコリする笑顔があった。

「ツバサくん。」

一気に全身に安堵が駆け巡る。

ツバサくんは中学の同級生で、
私の初恋の人。

癒し系で弟キャラで私のオアシスだ。

勇磨とも友達になって、
ツバサくんの彼女と4人で遊ぶ事もある。

今では大事な友達だ。

でも、どうしたんだろ。

なんで、ここに?

ツバサくんの困惑したような表情で、
自分が泣いていた事を思い出した。

ダメだ。

見られたくなくて、
慌ててタオルで顔を拭いた。

私の涙に気がつかないフリをして、
無邪気に笑って話し出す。

「なぁな、お腹空かない?
オレ、お腹空いちゃった。つきあってよ」

思わず笑みが溢れた。

なんだよ、かわいいなぁ、ツバサくんは。

かわいいなぁ。

癒される、そっか。
そうだよね、誰もが癒し系は好きだ。
甘えたくなる。
そばにいたくなる。
包まれたい。

勇磨だって、癒し系がいいはず。

またツライ気持ちに支配されそうになった。

「ねぇ、なぁな、行こうよ、ね。
モールの東テラスに、
新しいスイーツバイキングが
できたんだよ。行こうよ、ね」

そう言って、私の腕を掴んで引っ張る。

もう、私、スイーツ苦手なのに!

「いーの、いーの。
なんでも決めつけちゃダメだよ。
好きになるスイーツだって、
あるかもしれないじゃん」

なんだ、それ。

そんな事ある?

全く、ツバサくんは、かわいい。

私の腕を掴んでいたツバサくんの手を、
そっと外して立ち上がった。

「でも、ツバサくん、私。
これから行くところがあるの!
だから」

最後まで言う前にツバサくんが重ねた。

「いーじゃん、そんなの。
ね、なぁな。
オレ、どうしても、
なぁなに相談したい事があって、
ダメかな?」

え、相談?
何か、あった?
どうしたんだろう。

ツバサくんが悩んでいるなら、
話を聞きたいし、
力になれるならなりたい。

私にとってツバサくんは、
初恋の人という前に友達だ。

声変わりする前から知ってるし、
背も私より小さかった。

だから、ただの友達よりも深く、
そして少し違う。

成長を見守った弟みたいなんだ。

かわいくて、大切で、
いつも笑っていて欲しい。

だから、簡単には断れない。

でも、ごめん。

今日だけは今だけは。
今を逃したら勇磨が取られちゃう。
ヤダって言いに行かないと!

ツバサくんの相談も気になるけど、
でも、今は。

「勇磨のとこに行かないと!
会って話したいんだ。
ごめん、ツバサくん!」

ちょっと頬を膨らませて、
ムクれた顔をする。

思わず吹き出した!

「何、その顔!」

ムクれたツバサくんが携帯を取り出す。

「だって、なぁなは、
いつも俺の相談は聞いてくれたじゃん。
工藤は合宿だろ。邪魔しちゃ悪いし、
俺に付き合ってよ、なぁな」

そう言いながら電話をかけ始める。

黙って見てる私のそばで、
電話の相手と話し始めた。

「あ、工藤?俺。
なぁなとケーキ食べたいんだけど、
いいよね?」

驚いて顔を上げた。

え?勇磨!
勇磨に電話?

それは絶対にダメって言うよ。

ツバサくんだもん、ダメだ。
私が好きだった事を知ってる。
だから、特にダメだ。
許してくれるはず、ない。

勇磨は、本当に私を心配してくれて、
友達にガキって、からかわれるくらい、
やきもちを妬いてくれる。

俺以外の男と2人で会うな。
俺以外の男に触らせるな、手もダメ。

だから、絶対、ダメって言うはず。

また、怒るよね、きっと。

ハラハラして見守る私の前で、
話が進んでる。

「うん、分かってるって。
そー。大丈夫だって。
もう、うるさいなぁ。
うん、頑張れよ、じゃあな」

そう言って携帯を渡された。

どういう状況?

「あの、勇磨?」

一瞬の沈黙があって

「帰りはちゃんと送ってもらえよ。
あんまり食い過ぎるなよ。」

そう言った。

一瞬、理解できなかった。
頭が勇磨の言葉でグルグルする。
動けない。

なんで?
いいの?
怒らないの?

私が勇磨以外の男の子と夜、
2人でいるんだよ。

ツバサくんだよ。

あんなに嫌がってたのに。

触れるかもしれないよ、私。

本当にいいの?
いいんだ。

そんなに私の事、
どうでもよくなっちゃったの?

他に気になる人がいるから?

魔性的な魅力のお姉さんがいるから?

2人でいるから?

ああ、もう終わりなんだな。

こうやって心が離れていくんだな。

繋ぎとめたいけど、何も思いつかないや。

勇磨がそういう態度なら私、
このままツバサくんと、
どうにかなっちゃおうかな。

ツバサくんがダメなら、
その辺の人、誰でもいいや。

冗談じゃなく本気で、そう、考えた。

気を惹きたい。

こっちを見てほしい。

おかしくなってるのは分かる。

でも、あんなに必死に、
誰にも触らせないって、
俺だけって言ってくれてたのに。

あの時と今、どう違ってるんだろう、私。

何、しちゃったのかな。

「なぁな、ここだよ、ほら。早く早く」

気がつくとツバサくんに手を引かれてた。

俺以外に触らせるな。

私、
ツバサくんと手を繋いじゃってるんだよ、
いいの?

これもいいの?

「早くはいろ」

背中を押されて、眩しすぎる店内に入った。

なんだ、ここ。

明るい

ジャングルみたいじゃん。

造花がいっぱい。
あ、造花じゃないや、本物か。

すごいな。

はぁ。

いーや。もうどうにでもなれ。

私なんてどうでもいいや。

ツバサくん、助けてよ
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