こんなにも愛しているのに〜私はましろ

陸都の気持ち

ましろが怒っている。
当然だ。
自分の行いの悪さで、怒っているのだ。

鋭い舌鋒で、自分の心がギタギタに斬られる。

あの日
ましろのお父さんとあの女の人に、前後不覚になって怒っていた
ましろを思い出した。

ましろはいつも穏やかで、こんなに気持ちを乱して俺に怒りを向けるなど
皆無だっただけに、どうして良いか、なんて言えば良いか、
頭の中が真っ白になって、言葉が出て来なかった。

本当に軽い気持ちだったんだ。
もちろん、ましろ以外の人に心を惹かれることなんて、ない。
でも
あのストーカー事件以来、相手の好意をはっきりと断るのが怖くなっていたのは
事実だ。

ナースやドクター達から誘われれば、都合がつく限り、行っていた。
けど深酒はしないし、誰かと二人きりになるようなことも避けていた。

初めは逐一ましろに報告をしていたけど、ましろはその度に気のない返事を
するだけで、そのうち、自分も慣れてきて、ましろに報告するようなことも
しなくなった。

研修2年目に親友の達が、1年遅れで同じ病院に来た時、再会がうれしくって
つい羽目を外して、遊びに付き合うことがたびたびあった。
そのうち何も言わないましろが、達との付き合いに
眉を顰めるようなった。

しかし、それでも強く言わないましろ。
本当は呆れ返って何も言えなくなったんだな。
達との付き合いのことも、他のことも
何も言わなくなってしまった。

もちろん
達の誘いに乗る俺も悪いのだが、小学校からの友人で、
達の家の事情を知っている俺としては、上部だけでも軽いノリの達に
付き合ってやりたくなっていた。
相変わらずのワンマンの爺様に、達も医師として一人前になるまではと
人質に取られているような母親と妹のためを思って、我慢していることも
多いのだ。

しかし
数合わせで騙されていった合コンは、ましろを怒らせて、俺は家を出され
達は我が家、出禁となった。
久々に羽目を外した俺への怒りだったのだ。
それをもっとちゃんと考えればよかった。

キャバクラにも行った。。。
ハマりはしないが、何も考えずに楽しむことはできて、しばしの憂さ晴らしに
なったことは確かだ。

研修医の過酷さは、言わずもがな知れ渡っている。
理不尽なことを要求され、出れば頭を叩かれ、そのうち足も引っ張れるように
なるだろう。

でも
ましろだって一緒のはずだ。
それを、ましろは耐えて頑張っていたのに、辛そうだったら、
そっとしておくのが一番と思い込んで、あれこれ尋ねたり、
無理に励ましたりするのを止めていた。

なんで、あの時ましろの気持ちを共有しなかったのだろうか。同じ研修医、
しかも夫婦なのに。

ましろはどうやって、自分を立て直して前を向いていたのか、、、

なのに俺は、ナース達に囲まれてチヤホヤされて、そこをましろに見られても
照れ隠しで手を振るだけだったり、、、
相変わらず達と連んで遊んだり、、、

呼吸器科の安西先生のことだってそうだ。
あからさまな俺への好意を知っていながら、あの先生の距離の近さを、許していた。
あのグランピングから病院への帰り、車の中で、今度は二人っきりで
行きましょうって言われて、俺はなんて返事した。。。

『いやいや、いくらなんでもそれは、、、俺、既婚者だし。』
『そんなの黙っていれば良いことよ。
だって、奥さまは私と陸が一緒にいても何も言われないじゃない。
それとも家で、嫌味でも言われている?』
『いや、別に。。。』
『黙っていれば良いのよ、、、今度ね。』

安西先生の誘いに驚いた俺はそれ以上、交わすこともできず。
だからと言って
先生の誘いには乗っていない。

なのに
噂は広まって、、、

ましろが言う通りだ。
夫婦間の裏切りは、何もセックスを伴うことだけではない。

こうやって
噂で、いや、安西先生と親密そうにいただけで、ナース達と遊んだだけで
ましろの気持ちを蔑ろにしていたんだ。

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