こんなにも愛しているのに〜私はましろ

ましろとの出会い

名前は西崎 陸都(にしざき りくと)。
この春、父も卒業したこの地方で一番古い公立高校に合格できた。
母親は、幼稚園から高校までエスカレーター式の私立学園に、俺も兄貴の海都(かいと)もいれていたが、父親はちっさい頃から、親の跡を継いで
医者になると言っていた俺を、中学から公立にいれて、自分の母校に
進学しろと言っていた。

以前は藩校だった厳しい名を持つこの高校の門をくぐるのは、
自分の夢でもあった。
兄貴の海都は’医者には絶対にならない’と、言っていたのでそのまま
学園に残った。
高校から仲間と、自分の小遣いで株などをやり始め、まとまったお金が
できると投資もし始めて、結構親に内緒のお金を持っているのを、俺は
知っている。

親がいない時に、女を連れ込んでいるのも知っているが、
’黙ってろよ。’と口止め料をくれるので、もちろん、言わない。

お金のためというより、俺がチクって、家の中がゴタつくのが嫌だった。
自分と4歳違いの兄は、何だか、規格外のサイズの持ち主のようで
俺にはさっぱりと理解ができなかった。

高校の入学式。
今までのブレザーと違って学ラン。
詰襟のカラーが、首に痛かった。
式の間は我慢をしよう。。。
とぐるりと周りをを見渡したら、女子の一群の中に見つけた。

あの日
寒い塾の模試の日にいた、あの子を。
一際落ち着いた雰囲気を出し、長い髪を一本の編み込みにして背中に
流していた。
凛とした空気を纏い、そこだけ、違う光が差しているように思ったのは
俺だけか。

一目惚れだった。
塾の教室の中でも、見慣れない顔のあの子は目立っていたけど
その雰囲気から、男子も女子も声をかけられるような気安さはなかった。
親友の手塚 達(てづか とおる)は、可愛い子がいる、ドストライクだ、
帰りに声をかけてみよう、とまるっきり、空気を読めない浮かれ方を
していた。

それを
当時俺たちに付き纏っていた高校部の女子4人の前でも、言っていたので
このまま、何もなければいいけどなぁと、思っていた。
でも
悪い予感というのは当たるもので、帰りにちょっと遅れて外に出ると
オロオロとしている達と大笑いをしている彼女たちがいた。
尋ねると、さっきの女の子に塾指定の駅までの道ではなく、近道ということで
ラブホテル街への道を教えたというのだ。

あの辺は
そういう夜の専門の人たちもいて、治安も悪く、
決して、塾が教えない道だった。
俺は、大丈夫よと笑って腕を引っ張る彼女たちを振り払って、
急いで追いかけた。

女の子、、、高校で名前を知ったが、西澤 ましろは、急いで通りを
駆け抜けようとしていた。
途中止まって、携帯のナビで道を確認したりしていたが、
意を決したように駆け足で走り出した途端、あるホテルの前で立ち止まった。
というか、石のように固まってしまっていた。

西澤さんの視線の先にいた男女。入っていくのかは出てきたところなのか
向かい合って、何やら話をしていたが、自分達を見つめる視線に気づいて
顔を上げ、、、
驚愕した顔、とはこういうことだろうと、思えた男性の様子。

そこから始まる、、、修羅場。
その男性は西澤さんの父親のようだった。
西澤さんは泣きながら、父親に食ってかかり、相手の女性に食ってかかっていた。

父親は何とか宥めようとしていたが、女性はなす術もなく、逃げようとしては
西澤さんに引き戻され、、、
周りの通行人たちも、この修羅場に足を停められていた。

やがて
西澤さんは走ってその場を去っていった。
父親も追い縋る女性をおいて、西澤さん、娘の後を追いかけて行った。

見てはいけないものを見てしまった。
後味の悪い思いを抱きながら、塾に戻って行った。

’無事に駅の方へ行った。’
’あんなこと面白がってすることじゃないだろう。’

俺は不機嫌さ全開でそういうと、一人で先に帰った。

< 63 / 117 >

この作品をシェア

pagetop