ピアニスト令嬢とホテル王の御曹司の溺愛協奏曲
「実はあの動画を見て、あなたにお仕事を依頼したいと言っている知り合いがいるのよ」

 カフェに到着するなり挨拶もそこそこに唯川先生が切り出した言葉に、私は思わず瞠目してしまった。

「お仕事、ですか……?」
「ええ。日本のテレビ局でプロデューサーをしている男性なのだけれど、今度ニューヨークを俳優が旅する番組を担当するんですって。それで、番組のテーマ曲を作ってくれる作曲家を探していた矢先にあのストリートピアノ動画を見て、直感的にこれがこの人の自作曲なら彼女に依頼してみたいと思ったそうよ。でも、誰が弾いているかまでは一見して分からないでしょう? だから音楽の専門家である私を頼ってきたわけ。それで話を聞いてみたら六花ちゃんのことのようだったから、話をつなぐくらいはしてあげようと思ってね。もちろん仕事を受けるか受けないかは自由にして良いわよ」

 とりあえず話を聞いてみたいと返答すると唯川先生がプロデューサーにメールを入れてくれて、それからすぐに彼本人からのメールが私のスマホに届いた。
 それによれば、プロデューサーはもともと私を仕事の依頼先として検討してくれていたらしい。私の母の実家である旅館に滞在した折にそこで流れていたBGMを気に入り、その作曲を手掛けた人物が私であることを従業員から聞き出していたからだ。
 だが、そこではまだ候補者の一人という段階だった。動画の曲が決め手となったが、どちらも一条さんのものだとは運命的である。ぜひお受けいただければ嬉しいと、プロデューサーはかなりの熱量をもって書いてくれていた。
 あの演奏がそんな評価を受けるなんてと驚く私に、唯川先生は優しく微笑む。

「どうかしら? イップスの克服に集中するというのなら、それでも良い。でも、六花ちゃんは演奏だけではなくて作曲の方にも素晴らしい才能を持っている。今回の話は、その才能を世に知らしめるチャンスだと思うの。だから、もし少しでも興味があるならば挑戦してみたら?」
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