冷徹ホテル王との政略結婚は溺愛のはじまりでした
今、見せている素直な一面は、私しか知らないのかな。どうしてそこまで他人に心を開こうとしないのか、きっと聞いても教えてくれないだろう。
目の前に長い足が歩み寄ってくるのが見えた。視線を上げた先には、色素の薄い綺麗な顔がある。
「これからは敬語もいらない。対等な立場で夫婦になるわけだからな。はじめに、愛のない政略結婚にあたって掟を決めよう」
「掟?」
「そのほうが、お互いやりやすい」
何を考えているのか全く悟らせないポーカーフェイスで、淡々と告げられた。
「プライベートに干渉しない、気まぐれに手を出さない、お互い本気にはならない……異論は?」
手を差し伸べられて、こちらを見下ろす切れ長の目が不敵に細まる。にこやかな表情で聞き返したのは、私にも素を見せないという意思表示だろう。
「ないわ。全面的に同意見」
しっかり握り返す私に、彼も長い指を絡めた。
これが、ゼロ……いや、マイナスからの仮面夫婦のスタートである。