佐藤さん家のふたりとわたしと。
教室でも喋らないままの大志と奏志。

こんな距離の2人、見ていたくないな…

「ねぇ今日奏志部活ないんでしょ?みんなで遊びに行こうよ!」

ホームルーム後、2人の机の前で声を掛けた。

「「嫌だ」」

そう言われることはなんとなくわかってたけど、椅子から立ち上がった2人の腕をつかんでグイっと無理矢理引っ張るように誘った。

「遊びに行こ!ほら、カラオケは?2人とも好きじゃん!」

仲の悪い大志と奏志なんてらしくない。せめて仲直りのキッカケになればいいなって思って、不服そうに私を見る2人の腕を引いて近くのカラオケまで連れていった。

私たちの常連とも言える、前にお兄ちゃんがバイトしてた場所。

ソファーの端と端に座ってそれぞれストローの刺さったコーラをずーっと飲んでいる2人の前で、まるで私のオンステージかのように歌い続けるだけだったけど。

「ねぇ~歌ってよ~!私しか歌ってない!」

「お前の下手な歌聞いといてやるから好きなだけ歌えよ」

奏志が頼んだポテトに手を伸ばす、それと同時大志も手を伸ばした。

「いいよ、もう!充分聞いてるじゃん!」

目が合った2人はポテトを食べるのをやめた。サッと手を引いて、揃って腕を組んだ。

「もう…」

2人の真ん中に座って、オレンジジュースを飲む。ちゅーっとストローで吸って、はぁっと息を吐く。

「…なんでケンカしたの?」

「「………。」」

「どーせくだらないことでケンカしたんでしょ?残り1個のプリン取り合ったとか!早く仲直りしなよ!」

「「………。」」

「あ、チョコレートケーキみんなでわけっこする??」

何を言っても答えてくれなくて、隣の部屋から聞こえる知らない歌だけが聞こえていた。

せっかく3人でいるのに全然楽しくない。いつもはこんなじゃないのに。

「…いいよ、1人で食べるから」

注文しようかとメニュー用のタッチパネルでチョコレートケーキを探した。

「…じゃあ歌ってやるよ」

「え?本当??♡」

奏志がデンモクを使って選曲する。チョコレートケーキを注文するのをやめるのにタッチパネルをテーブルに置いて、代わりにさっき食べ損ねていたポテトを大志にあげた。

「大志もなんか歌ってよ」

「いいよ、芽衣の歌聞いてる」

「大志のが断然上手いじゃんっ」

ピッと転送される音が聞こえた。

これで少し空気が変わればいいな!って思った…

んだけど。

奏志の選曲、それはこっちが恥ずかしくなるぐらいのラブソング。


君が好き。


そんなストレートな歌詞に私が頬を赤くしてしまった。

ずぅずぅしいかもしれないし、うぬぼれかもしれないけど、自分の事を言われてるみたいで…何も言えなくなってしまった。
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