佐藤さん家のふたりとわたしと。
芽衣の12歳の誕生日。

今日はうちでパーティするからランドセル置いたらすぐ来いよ!って言ったのに全然来なくて、奏志と2人で呼びに行った。

電話の前でぼーっとしてる芽衣を呼んだら、急に笑って…

その笑顔が不自然で何も言えなかった。

「今日で一緒に寝るのは最後だから!明日からは私の部屋ね!」

結華ねぇーちゃんが両手を腰に当てて芽衣に言う。

不満げに芽衣が頬を膨らませ、3つ並べられた布団で眠る最後の夜のことだった。

「なんでもう一緒に寝ちゃダメなのかな?」

「「………。」」

なんでって…なんでかな?
そのなんでかはわかんないけど、結華ねぇーちゃんの言うことは絶対なわけで、それを覆せるものはない。

「寂しいなぁ…」

ポツリと布団を口もとまで被った芽衣が呟く。
豆電球が小さく灯る部屋の中、俺たちの真ん中でぼそぼそとか細い声で話し始めた。

「今日ね、お父さんとお母さんから電話来なかったの」

毎年芽衣の誕生日にかかって来る電話、今年は来なかったんだ。

だから電話の前で待ってたのかな…?

あの不自然な笑顔は…

「動物追っかけてて忘れちゃったかな?」

外国のどっかで動物のお医者さんをしてるっていう芽衣のとーちゃんとかーちゃんはいつも忙しそうで俺もちょっとしか会ったことがない。

だからもちろん奏志も同じで今だって、反対側で同じこと思いながら寝たフリしてる。

「…もう帰って来ないのかな?」

どんどん声が小さくなっていく。

「私とお兄ちゃんより動物のが好きだもんしょーがないよね」

今にも泣きそうな声で。

「「そんなことねぇーよ」」

寝たフリしてた奏志と声が重なった。

「お前がそんなこと言ってたらとーちゃんもかーちゃんも帰りにくいだろ」

「そうだよ、本当は絶対早く帰って来て会いたいと思ってるよ」

「そうかな…?」

「「そうだよ」」

手を繋いで眠った。

きっと3人で手を繋いだ最後の日。
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