粉雪小夜曲

あれから数日間、部屋中、外と心当たりを探したが腕輪は見つからず、あの男の夢も見なくなった。

(最悪な目覚めが、ずっと続いてる感じ)

朝の通勤時間帯、白い息を吐きながら胡桃が横断歩道で信号待ちをしている時。

ふと向こう側を見ると、背の高い体格の良いスーツにコート姿の男性の姿が見えた。

(なんか夢の彼に似てるかも)

青信号になった。
人間が波となり一斉に歩きだす。

太陽は逆光であり、顔はよく見えないが……。

二人はすれ違う。

横断歩道を渡り終えたところで、胡桃は振り返る。
あの男性の後ろ姿が見えた。

(そんなわけ、ないか)

胡桃は自嘲気味に微笑すると、正面に顔を戻し歩き出そうとした時。
突風が吹き、紐状の何かが胡桃の顔面に飛んでぶち当たる。
張り付くように止まった。

「……」

それを見た人間が、吹き出さないように顔を背けたり口元を押さえながら、胡桃の横を通り過ぎていく。

(もう、また……)

現実の世界では災難ばかり起こる胡桃が、顔に張り付いたそれを剥がし、ため息混じりに視線を動かした。

(……!)

見た瞬間、心臓を叩かれたような鼓動が自分でも聞こえた。
震える手で、それを見つめる。

青基調の麻素材の腕輪。

横断歩道を渡り終えた男性が歩みを止めた。
振り返り胡桃の後ろ姿を見つめる。

手には同じく、赤基調の麻素材の腕輪が風に揺れていた。
まるで風の精霊が、あの雪の狼から取り戻し二人に運んできたかのようだ。

晴れているのに雪が降り始めた。
太陽の光で冷たい粉雪が乱反射している。

清んだ空気の中を舞う輝く美しい風花は、まるで冬の女神の祝福の魔法のようだ。

雪の狼と風の妖精が、歓喜乱舞している。

月は太陽があるからこそ輝ける。
夜があるから、朝はくる。

二人の偶然が未来に繋がっていく。
気づかずに奏でられた小夜曲の完成は、そう遠くない事のように思えた。




『粉雪小夜曲』終わり
2021.12.24.
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