乙女ゲームオタクな私が妹の婚約者と結婚します!
大きな声を出す勇気もなく、念を送っていたけど、女の人達は離れない。
ドンッと突き飛ばされ、繋いでいた手がするっと抜けてしまった。

「天清さ―――」

負けずに話しかけようとした瞬間、天清さんの纏う空気が変わった。

「挨拶はもういいよ」

私が聞いたことのない低い声に驚き、伸ばした手を下ろした。
怒ってる?
その声は一瞬で喧騒をとどめた。

「部屋に案内を」

「は、はい。失礼しました」

低い声に蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、支配人や女将さんが前に出てきた。

不躾(ぶしつけ)で申し訳ありません」

「いえ」

無駄なことは一切話さず、天清さんは私の手をとり、黙ったままだった。
笑顔が消えた横顔は新崎の総裁に似ている。
やっぱり親子だなと思いながら、横を歩き、部屋へと案内された。

「離れの特別室でございます」

緑眩しい外の景色を窓から眺めることができ、畳のい草の香りがまた素晴らしい。
床の間には掛け軸と花もセンスがいい。
甘い生菓子に渋いお茶を出し、女将が部屋から下がっていった。
天清さんはどこか冷たく見えた目を何度かまばたきさせた。
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