籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
その日和穂さんは帰宅しなかった。仕事が忙しいようで電話をしても繋がらなかった。
広すぎる部屋の中で衣装ケースからパジャマと下着を取り出して本来であればやらなくてはいけない荷物整理をする必要はなくなった。この状態で引っ越しが出来るように何も触らないようにした。

初めて使わせてもらったシャワー室は全面ガラス張りで大理石の浴室は高級ホテルを彷彿とさせる。
シャワーを借りてから自分の家から持ってきたベッドに体を預け眠りについた。

―…―


「ちょっと、聞いたんだけどさ!」
「何を?」
「異動あるらしいよ。これ内緒ね、うちの部署から」
「え?!いつ?だって4月の異動はなかったんだよね?」
「チームリーダーにね、名刺そろそろ無くなるから新しいの頼もうと思ってて。で、ほら、はすみももうないって言ってたじゃん?だから一緒に頼んでおこうと思ってさ。そうしたらね!!それは来月以降にしてって」
「本当に?じゃあ…どちらかが…もしくはどちらも異動?」
「そういう事だと思うんだよね~でも、5月異動って珍しいね。うちの会社って4月が多いじゃん」
「確かに」

デスクで資料作りをしていると隣の席の夏子が耳打ちをしてきた。
どうやら確定ではないがどちらかがどこかの部署に異動ではないかということだ。

 名刺を作らなくていいということは、もうじき他部署に異動するからその際に新しい名刺を作るということだ。
 夏子が口を尖らせながら次はどこかなーと独り言をつぶやく。
どうせならば藤沢千佳の働く総務とは少し離れたフロアで働きたい。
それか一層のこと転居の伴う異動でも構わない。
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