僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~
episode、2 新たな出会い

母親


大学への入学式は、女性用のパンツスーツで出席した。
本当は男性用のスーツで出席したかったけど、母さんの手前なんとなく遠慮したんだ。

幸いだったのは、幼馴染の中に同じ大学へと進学した人がいなかったことだ。

俺はそれをいいことに、心置きなく好きな服を着て大学へと通っていた。


「島崎祐子くん」

講堂で呼ばれ手をあげる。

「――――ん?かなふりの間違いか?」

見た目が男なのに、名前が女。

初めのうちは先生方も気にしていたけど、そのうち何も言ってこなくなった。


「あ、祐。こっち」

「お待たせ、母さん」

両親は戸惑うことはあっても、俺を完全に拒否したりはしなかった。
たまに会って現状報告会のようなランチを一緒に過ごすこともある。

両親は家に帰って来いというけど、俺は遠慮していた。
俺が勝手にやっていることで、両親に肩身の狭い思いをさせたくなかったからだ。

「わー・・・今度はおひげ―――ですか」
「うん、似合ってる?」
「―――うん、そうね。カッコいいじゃない」

どんどん変わっていく俺の容姿に、母は気丈に振舞ってたけど、どこか悲しそうな眼をしていた。

ランチセットが運ばれてきて、心配そうに聞いてくる店員。

「・・・レディースセット、二つでよろしかったですよね?」
「はい、何か問題ありました?」
「あ、いいえ!申し訳ありません。量が少ないのではと心配になってしまってっっ」
「僕、小食なんですよ。お気遣いありがとうございます」
「そうなのですね、失礼しました。ごゆっくりどうぞ」

見た目は男でも体は女。だから、食べれる量も普通の男並みとはいかないんだ。

「凄いね、もう完璧に男に見えるみたい」

「本当ね。髪も短くカットしたし、完璧なイケメン男子君だね」
「お世辞でも嬉しいよ、ありがとうね、母さん」

「どう?大学生活は?」

いつも言われるのは、大学はちゃんといくこと。

自分で決めた道なんだから、やけになって訳の分からない人と付き合うなってこと。

人に対しては誠実に接すること。

お父さんが気にするから、たまに電話をかけること。

そして、クラブやライブ会場にはあまり出入りしないことだった。

母さんの中では、そこには俺のように性に悩んでいる人たちがいて、自暴自棄になっていたり、クスリに手を出しているってイメージがあるらしい。

映画の見過ぎだって思うけど、これ以上心配させないように分かったと毎回のように返事をしていた。

「父さん元気?」
「うん、元気よ」
「ばあちゃんは?」

「うん、体はちょっとね、しんどそうな時もあるようだけれど、まぁ、元気だったわよ。相変わらず、お友達と施設で楽しそうにしてる」

「そっか、祐子はどうした?って言ってる?」

「言ってるけど、なんとなく誤魔化してる。大学が忙しいとか、交換留学行ったとか」
「ははっ、交換留学?そんなの行くわけない」
「だって、しょうがないじゃない」

母さんは、おばあちゃんが悲しむからって、会わせてくれない。

『悲しむから』って。

母さんも気持ちに整理がついてないし、今だに戸惑ってるし、俺の気持ちを考える余裕なんてないって分かってる。

分かってるけどさ、その言い方に、いちいち傷ついちゃうんだよな。

こんなにも理解してくれるだけでも有難いのに、気持ちの弱い自分に腹が立つ。


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