僕らの恋愛事情【完】 ~S・S更新中~

表向きな顔

「じゃあ、もうバイトの時間だから、行くよ」

「あ、うん。———ちゃんと、ご飯食べるのよ?栄養バランスも考えてね?」

「はいはい、分かりましたよ」

笑顔を向ければ、少しだけ安心したように笑ってくれた。

ここ一年、俺のこと心配してくれてる。
それだけでも、十分にありがたいよ。

そう思って生きてかないと。
これ以上両親を悲しませたくない。



地下鉄に乗って今日の仕事場に向かう。

一見静かな住宅街の中にライブハウスがある。

地下鉄を思わせる煉瓦造りの風除スペースを抜けて階段を下がれば、地下にあった昔の映画館を改装したライブハウスがあるんだ。

今日は、ここでスタッフとして働くことになっていた。


イベント会社でバイトしている俺はこれ以外に、デパートのイベントの準備や片付け、各企業の販売促進キャンペーン、博覧会、自治体のフェスティバルなんかもあったりする。

制服の着用もなくて、バイトは私服に腕章を付けたり、そろった上着を着るだけなのも、俺には都合が良かった。

土日を中心にバイトを入れてるから、結構な報酬になるんだ。

これだったら勉強と両立できるし、寂しい夜を一人で過ごさなくてもいいとあって、俺には好都合だらけのバイトだった。


「お、今日は島か、頼むな」

「はい、宜しくお願いします。逆リハですよね?トリのバンドの様子、見てきます」

「おう、準備できてるって伝えといて」

「はい!」


PAの剛力さんは、よく一緒になる。

そのうちに彼の仕事の流れを理解して、先回りして働けるようになった。

出演バンドのリハが終わり、各ブースの準備も整って時間通りに会場openすれば、観客たちが我先にとなだれ込んできた。


「あっぶねー」

「たっはっはっは、大丈夫か島くん。すっげ―焦ってたな。怪我ねーか?」

「はい」
扉開けた瞬間壁に張り付くのが遅れて、足・・・踏まれたけどね…。
そんなのカッコ悪くて言えない。

職場の人らとの関係は良好。俺のことをちゃんと知っているうえで普通に接してくれる。

例えば俺は、粋がっていても所詮体は女。
体力つけたり鍛えてたりするけど、普通の男のように力仕事が出来ない時がある。

そういうのを、嫌味なく笑いに変えて考慮してくれるんだ。

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