エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
「ううん、何でもない……ねぇ、朔」
「ん?」
「私は味方だからね」
朔が瞠目する。なかなか見られないびっくり顔に自ずと笑みが溢れる。
「私はあなたのパートナーだから。できることは何でもするから、また言ってね」
「……おう」
ぶっきらぼうな返事。でも、少し照れが入っているのがわかる。ほんの少し。多分、初見の人ではわからない。
昔からつらかろうが、痛かろうが、朔は泣かないし、泣き言も言わない。若干口の端にぐっと力を込める。それもすぐにやめてしまうから、見落とされることが多い。
それに気づいてから、私は朔にちゃんと口に出すように促したけど、性格上なかなか直らなくて、こちらが察してやることでしか寄り添えなかった。
朔もつらい恋をしていた。きっと、まだ好きなんだと思う。
じゃあ、せめて朔の役に立つ。そして、安らいだり、楽しくなったり、一緒にいる時はそうやって過ごそう。彼女とは仕事場で必ず会うのなら、家では少しでも忘れられるように。
私ができることを明確に見えてきた。
よし、がんばろ!
朔がいう、他人のためなら無理してでも頑張る私の性質が今回は役に立ちそう。
でも、ちょっとだけ、昔初恋が破れて泣いた私のことも慰めてあげたい。
今日はお風呂に音楽をかけて、いい香りの入浴剤を入れて。そこで、枯れるまで涙を流し切ろうと思う。
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