エリート弁護士は契約妻と愛を交わすまで諦めない
朔の車の助手席で自分を鼓舞し続けていると、あっという間にホテルについた。
「じゃあまた」
「うん……」
シートベルトを外しながら頷く。
気持ちは……重い。自分が今無職であることもそうだけど、何より大学メンバーは私に彼氏がいたことを知っている。別れたと言っていいだろう。ただ、結婚祝いの席に水を差すのも嫌だなと思う。
「つらかったら早めに切り上げてこい」
朔が拳を突き出してくる。私が何に悩んで憂いでいるのかお見通しみたいだ。でも、朔が味方でいてくれると思うと、なんだか強くなれる。
一緒に住み始めてひと月半。私たちの中でも大体サイクルができてきた。朔が休みの時はのんびり近所に買い物に出かけたり、夜はベランダで空を見ながら朔はビール、私はお茶で何気ない日常のことを話したり。それがすごく楽しい。
彼に安らげる日常を提供しようとしていたのに、逆に私のほうが与えてもらっている。
「うん。いってくる!」
私は拳をトンと合わせた。男性恐怖症に陥ってから、初めて触れる異性。内心ドキドキしたけど、勇気を出したら嫌悪感はなかった。むしろ朔のほうが私の行動に硬直した。
彼の見たことがないほど度肝を抜かれた顔に私は気分がよくなり、そのまま車から降りる。彼に手を振ったら、ぎこちないながらも手を振り返してくれる。
よし、調子はいいし、萌の時みたいにのらりくらり躱して、さっさと帰ってこよう!
このままの勢いなら大丈夫だ。私は高級ホテルにロングワンピースの裾を勇ましく靡かせて入っていった。
レストランは一階だからフロントの前を通って、すぐに辿り着いた。予約してくれていた友達の名前をスタッフに告げるとすぐに中に案内してくれる。
三人はもう着席していた。今日の主役である真美が一番奥の席で奈々子がその向かい側、知佳が真美の隣に座っている。真美が一番に私に気づいてくれて手を振ってくれる。
「久しぶり~柚!」
「ごめん、遅くなっちゃった」
「ううん、私たちも今来たところだから」
私は空いている奈々子隣の席に腰かけた。みんな変わりなく、可愛い。真美はエステティシャン、奈々子と知佳は金融の事務職だ。真美は職業柄なかなか休みが合わなくて、土日のこの女子会も参加できないこともあった。今回は寿退社したから、土曜日開催できたらしい。
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