客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
彼の部屋
 社員旅行の後に匠の仕事が急に忙しくなり、二人は同じフロアにいても視線すら合わない。寝る前の電話がホッとする時間だった。

 二葉はベッドに寝転がって、匠の声に耳を傾ける。隣に置いてあったクッションを匠に見立てて抱きしめると、彼に触れられないことが悲しくなる。

「寂しいなぁ……」

 二葉がつい口走ると、電話口の奥の匠が黙り込む。二葉はワガママを言ってしまった気がして慌てて否定しようとした。しかし匠の言葉に遮られてしまう。

『あのさ二葉。今週末さ、うちに泊まらない?』

 匠からの突然の誘いに胸が高鳴る。

「えっ……いいの?」
『うん、それでさ、土日の二日間で東京十社を巡ろうよ。朝から一緒なら、そのまま車で出かけられるしさ。どうかな?』
「い、行きたい! でも……ということは二泊?」
『そう。秩父の時を思い出すよね』

 彼の家に泊まるということは、あの約束がとうとう果たされるということ。かなりご無沙汰な二葉は、想像しただけで極度の緊張状態に陥る。

 秩父の時は私も彼も若かった。無我夢中でお互いを貪り合い、濃密な時間を過ごした。

 今はどうなんだろう。まるで初めてのようにドキドキする。

「うん……そうだね。すごく楽しみだな」

 電話を切った後は、ドキドキよりソワソワが大きくなり、クッションを抱きしめる力も強くなる。

 週末には匠さんをこうやって抱きしめていいんだよね……。六年前の彼を思い出して、体が熱くなって思わず足をキュッと閉じる。

 初めて匠さんの部屋にお泊まり。私は信頼されてるって思っていいの?
< 73 / 192 >

この作品をシェア

pagetop