客観的恋愛曖昧論〜旅先の出会いは、運命の出会いでした〜
「そういえば仕事は? 突然出ちゃって大丈夫だった?」
「うん……急用って言って出てきた。明日は残業になるな」
匠の手が二葉の体に回され、強く抱きしめる。
「……女の人に連れて行かれたって聞いて、嫌な予感がしたんだ……間に合って良かった……。巻き込んでごめん」
「大丈夫」
そうは言っても、やはり大きな不安が二葉の心を占めていれるのも事実だった。
「二葉の言葉、嬉しかったんだ。俺を守るとか、
信じるとか」
首元にかかる匠の息遣いがくすぐったい。それなのに、匠は更に嬉しそうにクスクスと笑う。
「自信がなかったわけじゃないけど、二葉がそこまで俺を想ってくれてたことが嬉しくて仕方ない」
「……こんなに好きって言ってるのに?」
「なんかまだ手探りだったんだ。言葉にしないと伝わらない。でも言葉だけでも足りない。どれだけ疑心暗鬼になってんだろうね」
「私の愛は伝わってなかった?」
「そんなことないよ。二葉はたくさん愛情を示してくれてた。俺の心のせいなんだ。先生と関係を持ってから、正解がわからなくなった。この好きは本物なのか……好きじゃなくても口に出せる嘘つきな自分がここにいて、それが当たり前のようになってた。偽りの自分から抜け出せなくなっている気がして、二葉を愛してやまないのに、これがちゃんと本物なのか不安になってたんだ……」
二葉も真梨子と対峙し、彼女の持つ圧倒的な雰囲気に呑まれるかのような感覚を味わった。だから匠の言葉の意味がわかる気がした。
「でも今日、二葉と先生の二人を前にして、二葉を守りたいって思った。いや、守らなきゃって思ったんだ。先生と完全に違う感情が俺の中に湧き起こって……あぁ、人を愛するってこういうことなんだって改めて思ったんだ」