俺様石油王に懐かれて秘密の出産したら執着されてまるごと溺愛されちゃいました

 いつからか私の夢は、ありきたりだけど、素敵なお嫁さん。

 愛する人と細やかだけど、お互いを思いやり、笑顔の絶えない、温かい家庭を築く事。


 自分に愛する人が出来たら、大切に唯一として一生、愛し抜きたいと願っていた。 



 けれど、今、私の日常には愛する旦那様は、側に居ない。


「夢は叶わないから、夢……」

 夢は呪いだ……
叶えられなかった人が永遠に囚われ、憧れる、終わりのない呪い……

 私はフッと小さく鼻で笑う。


 アルとルル、二人の子供達だけが、私の大切な、愛する大切な家族。

 守るべき二人の天使に、逢えただけでも、充分に幸せだ。 



「心配してくれてありがとう、私は大丈夫よ、毎日幸せ」

 元気だけが私の取り柄。
口角を目一杯上げて、ふふふっと笑う。

「なら、良いけど…… 」

 伊織は小さく呟くと、手にしていた書類で、私の頭をポンッと叩くと、直ぐに、仕事モードの顔に変わった。


「何アレ? 幼馴染だかなんだか知らないけど、ベタベタし過ぎ」

「子持ちのくせに図々しい」

「男癖悪いってマジか」

 ヒソヒソと、周りの看護師からの痛い視線と嫌味が聞こえて来る。

 女子の多いナースステーションでは、医師に次いで、独身イケメンスタッフは大人気。
 
 その中でも、いつも、口角を上げて微笑んでいる伊織は、人当たりが良く、群を抜いて人気があった。

 そんな伊織と親しくしていれば、当たり前だけど、女子からの攻撃はキツい。

(私からしたらあの微笑みは、本心を見せない伊織の、仮面にしか見えないんだけど)

 怖い女子には、教えてあげないけどね、と心の中で舌を出す。

 育った環境が環境なだけに、誰にも心を許せないのは、仕方ないのかな。

 そう思う反面、妹分としては、本当の伊織を理解してくれる彼女が、早く現れるのを願うばかりだ。

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