まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~
4
その日は雨だった。
放課後、傘を差して暗い道を歩いていると、見知った背中が目に入った。
(まどか)
無干渉でいることをやめたものの、ここ何日かは借りたハンカチを返す時に数言言葉を交わしたり、影ながら様子を見守ったりしている程度だった。
度々、例の空き地でブチャと戯れている姿も目にした。
……決してストーキングなどではない。
ブサ猫と遊ぶ麗しい元夫を盗み見て、はぁはぁしていたりはしない。しなかったはず。多分。
時折誰かを探すように視線を彷徨わせて、そのたびにしゅんとしているのが、特に可愛かったです。はい。
「隣にいるのは…」
視線の先にはまどかだけではなく、一人の女子生徒がいる。
足が細く長身で、セミロングの柔らかそうな茶髪が肩下で揺れている。
二人は仲睦まじく隣合いながら道を歩いていた。
通り過ぎる人々が見惚れていることから察するに、美男美女のカップルのようだ。
つまり、女子生徒の方もかなりの美人だということ。
私の邪推が先走る。
(まどか。いい人ができたの)
胸のざわめきを無視して、無理やりに笑顔を形作る。
(それでいい。まどか。私以外の誰かと幸せになって。そうしたら、あなたは死んだりなんかしない)
あんなに若くして死ぬことも。
あんなにひどい死に方をすることも。
絶対にない。
(……死なせない。死なせない。何を引き換えにしても)
知らず、呼吸が浅くなっていた。
――まずい。
そう思いながらも、脳が思い出すことを止めてくれなかった。
そうして、何が引き金となったのか。
私の頭は勝手に、見たくもない記憶を引きずり出す。
凄惨な、昔の彼の最期。