まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~





その日は雨だった。

放課後、傘を差して暗い道を歩いていると、見知った背中が目に入った。


(まどか)


無干渉でいることをやめたものの、ここ何日かは借りたハンカチを返す時に数言言葉を交わしたり、影ながら様子を見守ったりしている程度だった。


度々、例の空き地でブチャと戯れている姿も目にした。


……決してストーキングなどではない。

ブサ猫と遊ぶ麗しい元夫を盗み見て、はぁはぁしていたりはしない。しなかったはず。多分。

時折誰かを探すように視線を彷徨わせて、そのたびにしゅんとしているのが、特に可愛かったです。はい。


「隣にいるのは…」


視線の先にはまどかだけではなく、一人の女子生徒がいる。


足が細く長身で、セミロングの柔らかそうな茶髪が肩下で揺れている。

二人は仲睦まじく隣合いながら道を歩いていた。

通り過ぎる人々が見惚れていることから察するに、美男美女のカップルのようだ。

つまり、女子生徒の方もかなりの美人だということ。


私の邪推が先走る。


(まどか。いい人ができたの)


胸のざわめきを無視して、無理やりに笑顔を形作る。


(それでいい。まどか。私以外の誰かと幸せになって。そうしたら、あなたは死んだりなんかしない)


あんなに若くして死ぬことも。

あんなにひどい死に方をすることも。

絶対にない。


(……死なせない。死なせない。何を引き換えにしても)


知らず、呼吸が浅くなっていた。

――まずい。

そう思いながらも、脳が思い出すことを止めてくれなかった。


そうして、何が引き金となったのか。


私の頭は勝手に、見たくもない記憶を引きずり出す。

凄惨な、昔の彼の最期。



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