まどかな氷姫(上)~元妻は、愛する元夫からの愛を拒絶したい~

5







「………ん」


目を開くと同時に、ほのかな温もりを感じた。

その正体を探ろうと視線を向ければ、間近に整った顔があった。


「っ!?」


………私は何故、まどかに横抱きにされているのだろう。

頬を赤くしながら、状況把握に努める。


「まどか?」


体に回された腕はしっかりと私を支えてはいるが、当の本人はぐっすりと眠りこけ、こちらの頭に顔を預けていた。


(……私を抱きしめてなんていたら、寒いでしょうに)

二人揃って寝ている間に、部屋の中の大惨事は幻のように消え去っていたが…。


そっと手を伸ばし、目の前の整った顔に触れる。

体温の低い私が触っていても起きる気配がないのは、多分、彼の熱が冷たい体を温めてくれていたから。


長いまつ毛が白い頬に影を落としていて、まるで人形のようだ。男のくせに。男のくせに。


「………まさかね」


先ほど見た夢の内容を、私ははっきりと覚えていた。

だから、記憶のある、昔の姿の彼が最後の瞬間に私へかけた言葉も鮮明に思い出せた。


(あの言葉を言ったのは、あなたなの?)


戸惑いながら、私は小さく唇を動かす。


「………好き」

「っ」


弾かれたように、彼のまつげに縁どられた瞼が開いた。


(は!?)


驚いて目が点になる私を置いて、まどかはぽかんと私を見る。


「…………え?」

「まどか?」


てっきり狸寝入りでも決め込んでいたのではないかという反応速度だった癖、彼自身も呆然としていることを怪訝に思い、首を傾げた。


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