京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜
1. 不機嫌な若旦那様との邂逅
 スニーカーの底が抜けた。
 旅先で。

 ズボッと大きな音を立て──

 靴が壊れた。

 久しぶりに履いた靴のありえない仕様に、千田史織(せんだしおり)は内心で絶叫した。

(嘘でしょう、──ここで?)

 抜けた靴底を戻すように、史織は浮いていた踵を戻し起立の状態で立ち止まる。

「……」

 いやいやいや──

(どうしよう……?)

 旅先である。
 しかも昼ならまだしも夜半過ぎ。
 更に言うとここは見慣れぬ街並みの古都京都。
 大学二年の夏休み、内気な性格の史織は、奮起して一人旅に挑戦してみた。

 旅の計画も、手配も全て自分一人。
 今までは親にくっついて歩いているだけだったから。準備一つとっても、こんなに緊張して大変なんだと初めて知った。
 それでも心はウキウキとはしゃいだ。

 夜はライトアップが綺麗なんだそうだ。
 そうしてバスの時間に合わせて移動していた中でのこのトラブル……動けない、どうしよう。
 頼りになる家族も友達も無く、一人。やりようもなく棒立ちで固まっていると、知らない街で一人。暗がりに佇む不安に泣きそうになった。
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