京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

 急かすような言い方と肩に込められた力に押されるように、史織はホールから一歩二歩と離されていく。
 ……朔埜がホールを離れないと話しは出来ない。それにパーティーが終わるまで朔埜がここを離れられない事を考えると、やはり終了まで待つ必要があるだろう。
 果たして時間は取れるだろうかと、ひっそりと落ち込んでいると、背後から低い声が掛かった。

「朔埜、誰だその女は?」
 ぴくりと反応したのは、史織の肩に添えられた朔埜の手だ。
「……誰でもいいやろ」
「兄さんの反応がおかしいんだもの、そりゃ父さんも不審に思うよ」
 先に問うた声より少し高く、からりとした明るい声。
 恐る恐る振り向いた先には、朔埜の家族と思われる二人が佇んでいた。

 渋い表情をしているのは父親で、笑顔を見せているのが、弟。
 特に父親は朔埜に良く似ており、彼に二十年程歳を取らせれば、あんな感じになりそうだ。朔埜を兄と呼び掛けた事から、その隣にいる朔埜と同じ歳頃の男性が弟なのだろう。
 落ち着いた和装の朔埜とは対照的な様子で、洋装に栗毛の柔和な笑顔が印象的な男性だ。

「史織、行け」
「紹介しなさい」
「うるさい」
「ねえねえ、君が──」
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