京都若旦那の初恋事情〜四年ですっかり拗らせてしまったようです〜

「……別に」
 だがその質問に返す言葉はこれしかない。あの女は何も問題なんて起こしてない……朔埜が気に入らないだけで。

「何て、名前なん?」
 気付けば口にしていた。
 履き物の礼が述べられたメモには名前が書かれていなかった。あの時お互い名乗ってないのだから、確認のしようは無いのだけれど……

「──それは、個人情報に当たりますさかいに、いくら四ノ宮様でも言えませんわ。……今日帰るとは言うてましたけど」
 気の毒なくらい恐縮したホテルマンの、その台詞に胸が軋んだ。もう帰ってしまうのか……最後に自分に会いたいとは思わなかったのだろうか。

(もしかしたら、中途半端に終わった高台寺の観光をしているかもしれん)
「あの、朔埜はん?」
 戸惑うコンシェルジュを残し、朔埜はふらりとホテルを後にした。
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