スノー&ドロップス
「茉礼、お友達と仲良くね。鶯祐、頼んだわよ」
「わかってるよ」

 いってきますと、私たちは玄関を出る。敷地の階段を降りて、伸びてきた手と手を繋ぐ。
 お母さんを騙している罪悪感から、胸が痛む。あんなに喜んでくれたのに、私はもうずっと裏切っている。

 バスに乗っている最中も、手は握り合ったまま。一番後ろの席で隠すわけでもなく、ひたすらに揺られて。薄暗い空を眺めながら、鶯くんがつぶやいた。

「……茉礼、覚えてる? 初めて行った花火大会のこと」


 鶯くんと家族になった年の夏、初めて祭りというものに参加した。六歳だった私は、兄ができた喜びに加えて、華やかな場にテンションが上がり迷子になった。

 人混みの中、どれだけ叫んでも見つからなくて、神社の近くでうずくまっていたとき。突然誰かに抱きしめられて、目を開けたら。

『やっと見つけた! よかった……もう会えないかと思った』

 泣きそうな鶯くんの顔が、目の前にあった。後ろからお母さんとお父さんも走ってきて、みんなの顔を見た瞬間、こらえていたものが、ぶわっとあふれ出した。

 この日をきっかけに、鶯くんとの距離はさらに近くなった気がする。

「あの時の鶯くん、泣きそうだったよね」

「泣いてたのは茉礼だろ? 一人でふらふらどこか行くから」

 思い出して、クスッと笑みがこぼれる。
 懐かしい。もう何年も前だけど、つい昨日のことみたいだ。
 鶯くんの目が丸みを帯びて、伏目がちになっていく。

「鶯くん?」

 少しつらそうに眉を下げながら、私の頭を抱き寄せて。

「……ごめん」

 囁くような声が落ちてきた。耳元で鳴る心臓の音は、聞いたことのないほどの速さで、私の中へ入り込んでくる。
< 151 / 204 >

この作品をシェア

pagetop