スノー&ドロップス
 近づいてよく見ると、薄い碧色(あおいろ)になって変色は止まった。
 雪女の力を持つ髪を切ったから、生命力が落ちたのだ。白髪といい、どの道訪れるものだから、あまり気にならないけれど。

「また先生になにか言われそうだなぁ。今度はカラコンかって。さすがに、これは目立つよね」

 カットクロスを外して、回収ボックスの中へ入れる。細かい髪はあとで掃除するとして、髪を乾かさないと。

「藤春くん、大丈夫ですか?」

 困り眉に潤んだ瞳は、当人より心配していることが見てとれた。

「平気だよ。むしろ、晴れ晴れしてる」

 生まれ変わった気分になって、残りの人生をどう生きようかとワクワクしている。と言ったら嘘になるかもしれないけど、青砥さんの手で変われたことが嬉しい。彼女にとっては、迷惑かもしれないけれど。

「……あ、まだ、座っててください」

「なに?」

 再びスタイリングチェアへ誘導されて、お客さんになった。そばにかかっているドライヤーを手に取って、青砥さんが短くなった髪に触る。

「まだ、残ってます。終わってない」

 熱風が吹きつけて、白い髪を撫でる。頬や鼻、口を髪がくすぶって、指が触れるたびにドキドキした。
 何も言葉を発さなくても、この時間が愛おしかった。どこまでも続いてほしかった。

 けれど、なににでも終わりは訪れる。ドライヤーのスイッチが切れたとき、とうとうその時が来たと思った。


「ありがとう。これで、友達は解消だね」

 伸ばした手がそっと握り返されて、何秒か経ったあと。

「さようなら」

 ほとんど消えかけの声がする。名残惜しく離れていく手を、引き止めることはなかった。

 さっきまであった心の声も、聞こえなくなっていた。
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