スノー&ドロップス
 スマホの画面を見ると、そこには「着いたよ」の文字が浮き出るように並んでいた。

 ーーもうすぐ会える。

 唇が緩みそうな思いを抑えて、泥の靴跡が散らばる床にきらきらとした視線を戻した。

 電車が止まるより早くドアの前に立ち、遠足へ来た子どものような弾み足で車両から降りる。

 小走りで向かった駅の正面には、艶のある黒髪にスラッとした背丈。
 後ろ姿でも格好良いだろうと想像出来る男子の右手には、乾いた傘が閉じた状態で下げられている。

 ゆっくり呼吸を整えて、そっと彼に近付いた。

「ごめんね、待った?」

 反応がない。
 ……そっか。

 ポンと腕に触れると、耳のイヤホンを取りながら鶯くんが振り返った。

「あっ、ごめん。音楽聴いてて気付かなかった」

 ほんのりと頬を赤らめて、ううんと首を振る。

「帰ろうか」

 少し低めで落ち着きのある心地良い声。

 (おう)くんの声は、昔から子守唄のように包み込むような安心感がある。

 並んで歩き出そうとした時だった。

「……ちょっと、待って……あっ、青砥(あおと)さん!」
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