スノー&ドロップス
「そんな意地悪しないよ。でも、」

 起き上がった私の頬に、唇が降って来た。

 とうとつ過ぎて、状況を理解するのに数秒かかった。慌てて抵抗するけど、氷のような余韻が頬にじわりと染み込んでいく。

「口止め料。お互いに秘密は守ろうね」

 何事もなかったような笑顔で、藤春雪は部屋を出て行った。

 ごしごしと頬を擦りながら、ベッドに顔を埋める。
 加速した鼓動は鳴り止まなくて、走ったあとみたいに酸素不足で苦しい。息が続かない。

 これも夢だったなら、どんなに良かっただろう。

 布団に潜りながら、しばらく悶々とした想いを走らせていた。これは、きっとそうだ。他に何も思い付かない。理由がない。

 締め付けられたように心臓がドキドキしているのは、

 ーー鶯くんが兄だということを、知られてしまったからだ。
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