スノー&ドロップス
 きっかけは、本当に単純で小さなこと。その子の気に触ったから。そんな感じで何となしに始まってしまうことも、少なくない。
 空気のような存在だった私は、この日を境に嫌がらせの対象になった。

「最近、地味子のくせに調子乗り過ぎじゃない?」

「雪ちゃんの周りうろちょろすんのやめろし」

「その瓶底眼鏡もスカートも、見るだけで吐き気すっから」

 藤春雪を崇拝する3人からの陰湿な行為は、女子更衣室、トイレ、体育館裏通路とクラスメイトの見ていない陰でネチネチと行われた。暴言を吐かれ、砂糖を頭から振りかけられた。ノートは落書きで埋まり、大切な本がゴミ箱に捨てらる。

 この教室には、助けてくれる鶯くんはいない。消えてしまいたい。

 今日も部屋のカーテンは閉まったままで、土曜日の朝を迎えた。スマホのアラームを消して、日の当たらない空間に横たわる。

 学校へ行かなくて済むと思うと、気持ちが和らいだ。

 沈んだ胸に、ドアのノック音が響く。鶯くんが入って来ても、私は(ふさ)ぎ込むように枕へ顔を伏せたまま。大きな手のひらが優しく頭を撫でる。
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