黒子ちゃんは今日も八重樫君に溺愛されて困ってます〜御曹司バージョン〜
あ、そうとも言えるのか。私は八重樫君に恋を……。いやいや、そうじゃない。

「違う、違う。とにかく、こんな事されると心臓がもたない」

八重樫君はニヤリと悪魔のような笑顔を見せた。

「私と蓮は、単に同じ部署の同僚で、たまたま行く映画館が同じで、たまたま二人とも映画好きなだけ。それ以上でもそれ以下でもない。これまでもこれからも何も起こらない」

私は自分に言い聞かせるように言った。

「双葉が何で俺らの関係をそんな風に言うか分かんないけど、俺は……。俺は双葉と仲良くなりたい」

仲良く……か。

そうだった。八重樫君は友達がこっちにいないんだった。きっと一人で寂しいのだろう。

友達って割り切れるならそれはそれでいいかもしれない。
こんなに映画の趣味が合って、一緒にいる時間が楽しい人はこれからいくら探しても中々見つからないだろう。

「友達なら、大歓迎だよ」

「その笑顔は卑怯だ」

そう言うと、八重樫君は私にキスをしていた。

ん? 今仲良くって、友達って言ったばかりじゃん。

私はバタついて抵抗したが、八重樫君はやめなかった。

ただずっと唇を重ね合わせているだけだったが、それは何分にも何時間にも思えた。
私は抵抗をやめ、ただただ、八重樫君の気が済むのを待った。
その間私は不覚にも、この時間が永遠に続いて欲しいと願ってしまった。

「双葉が悪い。あんな笑顔俺以外に見せるなよ」

八重樫君はそう言うと、抱きしめてきた。

私はどんな顔をしたのか覚えていない。

ゆっくりと私を離した八重樫君は「これ以上、もう無理」と言って着替えて帰っていった。

……どうゆう事? 無理ってなに?

抱いて欲しいとも言ってもいないのに拒否されて、告白してもいないのに私は振られたの?
あれだけ用心したのに私は心に小さな傷をつけてしまったようだ。

その日私は、サンダルウッドの香りの入浴剤を入れた浴槽で瞑想し、傷ついた心を落ち着かせた。

もう八重樫君には振り回されませんように。
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