虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 いや、これはきっとおとぎ話の類いなんだろう。誰もが羨むサクセスストーリー。現代のおとぎ話。
 でもなぜだろう、九条くんも瑠美おばさんも、あまり嬉しそうじゃない。

「理恵ちゃん。すごくいやらしく聞こえてしまうだろうけど、お金って、無いともちろん困るけど、ありすぎても困ってしまうものなのよ」 

 瑠美おばさんの言葉に、九条くんも頷いた。

「努力の意味が見つけられなくなってしまうんだ。望めば何でも手に入るなんて感じてしまうと、自分を律する気持ちが失われてしまう。夢も希望もしぼんで、欲だけが残ったような人間になってしまう」

「悲しいけど、シャキールの一族のほとんどはそんな人たちだったわ。だから私は、正臣に繰り返し言い聞かせてきたの。お金は人が使うもので、お金に使われるような人になったら駄目よって」

 瑠美おばさんは、微笑んだ。

「理恵ちゃん、正臣。私は私なりに頑張ってきたけど、それは純粋に自分のためというより、シャキールや、シャキールの持つ莫大なお金を守るために戦ってきたようなものよ。やりがいもあったけど、それが幸せだったのかと聞かれると、自分でもわからない」

 そして、昔を懐かしむように、目を細めた。

「幸せを自分に問いかけると、私が思い浮かべるのは、幼いあなたたちと過ごした、あの光景。正隆さんがいて、正臣がいて、可愛いらしい理恵ちゃんと、おしゃまな真理ちゃんがいて……。毎日がキラキラして、本当に楽しかった」

 瑠美おばさんは、また私を見つめて、こう言った。

「理恵ちゃん、正臣をお願いします。あなたたちが、あの日のようなキラキラした幸せを紡いでいけるように。それだけが、私の望みです」

 私はまた、身体が震え出すような思いを止められなかった。
 
 目の前の人は、ジャミーラ・スルターナの異名を持つ、もはや生ける伝説のような女性だった。
 でもその人は、間違いなく九条くんのお母さんで、私と真理に美味しいケーキを焼いてくれた、あの綺麗で優しい瑠美おばさんだった。

 この素敵な人を、私はお義母さんと呼ぶことになるんだ──。

 涙が溢れて、止められなかった。
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