虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜

 凍り付いたような空気の中で、藤堂社長の告白が続いている。

「私は富永の与党とみなされて、地上職に移った後、累進を続けた。そして遂には、社長に任命されたが、それと引き換えに嶋田のような俗物が監視役として送り込まれてきた。もう……限界だった」

「……」

「私は社長就任が決まった日、会社を抜け出して、シンガポールの瑠美さんのオフィスを訪ねた。そして今話したことを全て打ち明けて、彼女の前で、土下座した」

 以前、直人さんが話してくれた、瑠美おばさんに真相を教えた誰かは、藤堂社長だった。
 でも瑠美おばさんは、かつて正隆おじさんと自分の愛を争った男性の変わり果てた姿を、どのような想いで眺めていたのだろう。

 九条くんが、静かに口を開いた。
 
「母は、社長になんと言ったのですか?」

「ひどい人ね、と、一言そう言われたよ」

「……」

「だが、瑠美さんはこうも言った。あなたを裁くつもりはない。裁いたところで死んだ人は生き返らないし、失われた時は戻らない。ただ、息子の身が心配です、と」

 九条くんが小さく息を吐き出した。
 藤堂社長はそんな九条くんの様子を見ながら、語り続ける。

「瑠美さんは、私にこう言った。息子をよろしくお願いしますと。私たちに少しでも詫びる気持ちがあるのなら、あの子が憎しみに心を染めてしまわないように、どうか見守ってあげてください、と」

 藤堂社長の告白は、以前の直人さんの話とぴったり符合する。
 全て事実だろう。
 でも、その時の瑠美おばさんと、今の九条くんの心の痛みを想うと──。

 すると急に、榊さんが口を開いた。

「お伺いしてもよろしいでしょうか、藤堂社長」

 そして藤堂社長が頷くのを見て、言葉を続けた。

「一点、解せぬところがあります。なぜ三橋や富永は事故を隠蔽しようとしたのでしょう。隕石の落下が原因なら、天災ではありませんか。彼奴らが責任を問われるような事態ではないのに、なぜ事故を隠蔽しなければならなかったのでしょうか」

 榊さんの問いかけに、答えたのは直人さんだった。

「それはな、榊さん」

 そして直人さんの話す内容に、全員が言葉を失った。

「あの日降ってきたのが、隕石ではなかったからだよ」
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