虹色 TAKE OFF !! 〜エリートパイロットは幼馴染み〜
バックを終えると、機体のエンジン音が大きくなってくる。
機体は誘導路を、離陸位置に向けてゆっくりと移動し始めた。
機内モニターが外部カメラの映像を映し出す。ゆっくり流れていく誘導路の景色に重なって、九条くんの声がスピーカーから流れてきた。
『機長の九条です。皆さま、本日はご多忙のところ、私たちの式にご出席いただき、あらためて御礼を申し上げます──』
あの、フライトシミュレーターでみた、狭くて複雑なコクピットの中で、九条くんは副操縦士と手分けしながら、すらすらとチェックリストを読み上げ、離陸の準備をしているのだろう。
『今回が、私の機長としての初フライトになります。皆さまに空の旅と、私たちの式をお楽しみいただけますよう、心を尽くして参りますので、何かお気付きの点がございましたら、お気軽にお近くのアテンダントまでお声がけください。なお、シートベルト着用のサインが消えるまで、お席を離れず、シートベルトをお締めくださいますよう、ご協力をお願いいたします』
落ち着いた声で説明する九条くん。
機体は離陸位置を目指して、タキシングを続けている。
誘導路には色違いの誘導線が何本も引かれて、埋め込み式の誘導灯もたくさん設置されている。その段差を越えるたびに、誘導路を進む機体は、小刻みに揺れていた。
私たちも、そうだったのかもしれない。
二人が再び出会い、結ばれるまでに、20年の別れと様々な出来事があった。
それらの全てが、この誘導路のちいさな段差のように、二人が結ばれるために必要な過程だったのだとしたら、その痛みも、涙も、今は全てが愛おしい。
私は手元のスズランのブーケに目を落として、そっと微笑んだ。
そして機内モニターに、誘導路の先の『31R』の文字が、大きく映し出された。
九条くんの声が流れてくる。
『皆さま、大変お待たせいたしました。これより当機は離陸いたします。離陸操作中のコクピットの様子をこのまま放送し続けますので、余興の一つとしてお楽しみくだされば幸いです』
機体が誘導路から滑走路の中に入って、滑走路の中心線がカメラの向きとピタリと合って、止まった。
機体のエンジン音が、高まった。